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「炭治郎、お前覚えてるんだろ?」
善逸は苦しそうに目を伏せながら炭治郎に語りかける。
「覚えてるって……。何がだ?」
炭治郎はにこにことした笑みを絶やすことなく善逸の言葉を不思議そうに聞き返す。
「全部だよ」
「俺達が大正の世を生きたことも、鬼殺隊として鬼を殺していたことも。それから――」
善逸は次々とその口から言葉を搾り出していく。それとともに善逸の表情は少しずつ暗くなっていき、視線も徐々に自信なさげに下がっていった。
善逸の言っていることは一般人が聞けばわけのわからない妄言に聞こえるだろう。
ただ、それを聞く炭治郎からすればそれは妄言なんかではなかった。
「覚えてる」
炭治郎のその言葉に善逸は下がっていた顔をバッと上げた。
「善逸の言うとおりだ。前の人生の記憶……、所謂前世の記憶を俺は一つ残らず覚えている」
「やっぱり……。じゃあ、」
善逸はその言葉を聞いてより辛そうに顔を歪める。炭治郎はそんな善逸の目を見つめながら言った。
「でも、Aは覚えていないんだ。何一つ」
炭治郎は無理やり笑顔を保ちながら言葉を続ける。
「Aが覚えていない以上、俺は何も知らないフリをする。善逸からもこのことは誰にも言わないで欲しい」
「――良いのかよ」
善逸は炭治郎のその言葉に目を見開きながら、訴えかけるようにして言った。
「本当に炭治郎は、それでいいのかよ!」
善逸が叫んだ。周りに人がいないのはせめてもの救いと言うべきか。
「俺は……。きっと、そうしないといけないんだ」
炭治郎は寂しそうに眉を下げた。
「ごめん。Aと待ち合わせしてるんだ」
そう言って炭治郎は善逸に背中を向ける。そして去り際、炭治郎は振り返って一言だけ言った。
「善逸とは、昔と変わらず良い友人でいたい」
「……もちろん炭治郎とはずっと友達だよ。……でも、」
「炭治郎とAちゃんは、ただの双子で済ませられるような関係じゃないだろ……」
善逸は顔を下げて苦しそうに額をおさえる。
「……ごめん善逸。俺、もう行くよ」
炭治郎はそれだけ言い残すと小走りでその場を離れた。
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作者名:さぬやぎ | 作成日時:2020年4月13日 13時