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ああ思い出した。そういえば今日は、——だった。
伊之助が記憶を取り戻しかけているのも、きっとそれが原因なのだろう。
少年はそんなことを考えながらどこか悲しげに遠方を見つめた。
日の光を反射して輝くその深紅の瞳に蘇ったのは、真っ赤に染まった彼女の身体。
そしてふと、己の鼻を掠めたのは昔から全く変わらない、彼女の好意だった。
いつものように、ぎゅっと、この胸が強く締め付けられる。
苦しい。
そうは考えても、だんだんと高鳴る鼓動は正直だった。
どこか嬉しく感じている自分の心は、嘘を吐かなかった。
―――
包丁とまな板がトントンと音を立ててぶつかる。
まな板に置かれた野菜を均等な大きさで切り分けながらAはぼんやりと考えた。
「(炭治郎の様子が変……)」
Aは学校から帰宅する道中の炭治郎を思い出す。
いつもの彼は、Aの上げた話題などに対して楽しそうに、そして積極的に言葉を発してくれる。だが今日の彼は終始どこか遠くの方を眺めていて、何か別のことを考えているようだった。
昼間会ったときは普段と何ら変わらない様子だったはずだが、教室で別れた後にでも何かあったのだろうか。
「(後で時間あったら聞いてみようかな……)」
そんなことを頭の隅で考える。
すると、そんなAの耳に突然、明るく軽快な声が聞こえてきた。
「Aお姉ちゃん!」
自分の名前を呼ばれ、Aはまな板に向けていた視線をあげる。
声の方に顔を向ければ、妹の花子がその丸い瞳でAのことをじーっと見つめていた。
「あっ花子。もう洗濯物たたみ終わった?」
「うん、できたよ! 次は何のお手伝いをすればいい?」
「そうだなぁ……じゃあ次は一緒にお魚を焼こう!」
「はーい!」
夕方になっても相変わらず元気な妹を見て、Aは優しく笑った。
因みにAが今何をしているかと言えば、家族のための夕食を作っているところだ。
母の葵枝と兄の炭治郎は閉店までパン屋の方で働いているため、普段はAと禰豆子が下の兄弟達のためにも夕方ごろには食事を作り始める。
まあそれでも八人家族だとそれなりの量を作る必要があるので時間はかなりカツカツだが。
しかし、最近では三女の花子もその忙しさを見て家事を手伝ってくれるようになった。
兄に似て家族を思いやれる子に育ってくれて良かった。
そんなことをしみじみと感じる今日この頃だ。
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作者名:さぬやぎ | 作成日時:2020年4月13日 13時