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善逸は先程の自分の行動を思い起こしながら心の中でひそかに悶絶した。


「(俺の馬鹿野郎。せっかく声をかけたのに何で逃げちゃうんだ)」


本当なら大声を出してこのやりようのないわだかまりを発散したいのだが、なんせ今は入学式真っ最中。

こんな状況で叫ぼうものなら黒歴史確定。なおかつ三年間冷たい視線で見てもらえるというおまけがついてきてしまう。

そのため善逸は歯を食いしばることでその羞恥心を抑え込む。

その間も善逸の耳にはこれから同じ学園で過ごしていく同級生の名前が入ってくる。


この学園の入学式では一人ずつ順番に呼名をされていく。

それにしてもただ名前を呼ばれて返事をするだけなのに妙に時間がかかってしまうのは一体なぜなのだろうか。
善逸はそんなことを考えながら目だけを動かしてあたりを見回した。


「(あっ、あの子だ)」


善逸の斜め少し前の席。そこに先程善逸が声をかけた少女の後ろ姿が確認できた。

善逸は前世の彼女のことを思い出す。確か彼女はとても明るい性格で、炭治郎と並ぶほどのお人好しだったはずだ。

彼女のことを考えているだけなのに善逸の胸は懐かしい感情で満たされていく。


「(あの子の苗字なんだっけなあ……。名前は覚えているんだけど。名前は……Aちゃん。で、苗字は確か――)」


そんなことをぼんやりと考えていると、体育館の前方に立っている教師が彼女の名前を口にした。


「竈門A」

「はい!」

「(ああそうそう。苗字は竈門……っえ?)」


かまど、竈門?
いいや。違う。彼女は前世では違う苗字だった。それにこの苗字は……。


「(……炭治郎?)」


善逸はわけがわからないといった様子で目を見開いた。その間にも次々と生徒の名前が呼ばれていく。

待ってくれ。少し頭を整理させてくれよ。

しかし時間は止まらない。


「我妻善逸」


善逸の名前が呼ばれた。


「……はいっ!」


混乱する頭で何とか返事をする。

本来ならばもっと爽やかな返事をして周りからの第一印象を良くしたい、などといったことを考えていた。
けれど実際に返事をしてみれば少し声がうわずってしまいお世辞にも爽やかとは言えない返事になってしまった。


しかし善逸は、そんなことを気にしていられないほど真剣に考えていた。
彼の頭の中には『竈門』という苗字だけがぐるぐると回っている。


なぜ。どうして。


さらに、困惑している善逸の脳内に追い打ちをかけるようにして“彼の”名前が呼ばれた。

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作者名:さぬやぎ | 作成日時:2020年4月13日 13時

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