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四月のよく晴れた日のこと。
その日は高校生活初日。つまりは入学式だった。
善逸は前世のことをすっかり頭の隅っこに追いやって、これからの高校生活にたくさんの不安を抱えながら学園の門を通り抜けた。
人間関係が上手くいかずに刺されたら。誰かに嵌められて単位を落としてしまったら。
はたまたモテモテすぎて女の子たちに取り合いされたり。
気持ちの悪いにやにやとした笑顔で今後の学校生活を心配する。どう間違えてもそんなことは起こりやしないのだが。
そんな、さまざまな妄想を頭の中で繰り広げる善逸の視界にふとどこかで見た覚えのある姿が横切った。
その姿を一目見ただけで善逸の身体をまるで雷が落ちたような衝撃が駆け巡る。
あの子は確か前世の記憶に何度も何度も現れていた女の子だ。絶対に間違いない。
「あ、あの!」
善逸はその少女に反射で声をかけた。そう、反射。
呼び止められた少女は美しい黒髪をなびかせながらゆっくりとこちらを振り返る。
「(やばい。思わず声かけちゃったけどなんて言えばいいんだこれ。前世ぶりですね? いや、そんなこと言ったら入学初日から変人確定じゃん)」
何も考えずに声をかけてしまったためセリフの準備を全くしていなかった。
目の前の少女も驚いたように目を丸めて固まってしまっている。
何を言えば良いのだろうか。
善逸は目を泳がせながら言葉を詰まらせる。そんな善逸の顔がよほど変だったのか、目の前の少女は可笑しそうにくすくすと笑いながら首をかしげた。
「入学式、緊張してるんですか? 汗がすごいですよ」
「(かっ、かわいい……!)」
彼女の声が善逸の鼓膜を心地良く揺らす。彼女の声は前世の記憶と全く変わらない、とても透き通った声だった。
けれど善逸は普段から異性と話し慣れていないのもあいまってその顔を真っ赤に染めてしまう。
「アッ。呼び止めて、すっ、スミマセン。なんでもないです」
片言ながらもなんとかそれだけ言いきると、善逸は回れ右をして全速力でその場を立ち去ってしまった。
その場に残された少女は、何かを真剣に考えるようにしてその場に立ち尽くした。
「……」
「おーいA。どうしたんだ?」
そんな時、少し離れた場所から少女を呼ぶ声が聞こえてきた。
「炭治郎……。何でもないよ。……そういえば今何時?」
「うーんと……。九時だな。新入生は十五分に集合だから、もうそろそろ行こう」
「うん。そうだね」
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作者名:さぬやぎ | 作成日時:2020年4月13日 13時