京都寺町三条のホームズ (青×緑) (ページ4)

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無遠慮に声を上げる彼女に、ホームズさんは微笑みかえした。

流「着物がいいというのは、「立派すぎる」ということですよ、美恵子さん」

みんな顔見知りの常連らしい。

美「立派すぎたらあかんの？」

流「ええ、嘘をつく者がペラペラと言葉を並べるように、ニセモノほど、こうして箱や表装が立派すぎたりするんです。そうしたものを「着物が良すぎる」と言ったり、「次第が悪い」とも言うんです」

穏やかな語り口で説明する彼に、俺は話を横聞きしながら、「へぇえ」と小さく頷いた。

美「へえ、そうなんか。つまりハッタリ言うことやなぁ。そんじゃあ、それもニセモノなん？」

掛け軸に視線を落とした美恵子さんに、ホームズさんは小さく首を振る。

流「いえ、それはこれから識てみないと。これまた、先入観にとらわれてはいけませんから」

丁寧に掛け軸を手に取って、ゆっくり開くと、金襴表装の中に富士山が描かれていた。

手前には桜。

その向こうに、悠然とそびえ立つ富士。

それは、吸い込まれるような迫力だった。

(......すごい)

こっそり窺いながら、その掛け軸の富士山に圧倒され、感動すら覚えた。

流「ほぉ、これはこれは」

感心したように漏らすホームズさん。

村「なっ、すごいやろ」

村上さんが目を輝かせながら、身を乗り出した。

流「「横山大観」の「富士と桜図」。なかなか良い品ですね」

美「やろ。これは状態もええし、かなりのモンちゃう？」

美「まあまあ、横山大観やて。高価なもんちゃうの？」

美恵子さんが村上さんの方を見て言う。

村「そら、大観のホンマもんやったら、五百はくだらんで。これやったら、もしかしたら千いくんちゃう？」

美「一千万か！村上さん、すごいやん！」

村「やろ？」

盛り上がる二人を前に、ホームズさんは申し訳なさそうに眉を下げた。

流「......そうですね。とても美しいですし、状態も良いのですが、残念ながら「工芸画」ですね」

その言葉に村上さんは動きを止めて、怪訝そうに眉を寄せた。

村「......ホンマか？大観の工芸画やったら「工芸」って判が捺してあるもんやろ？どこにもないやん。ホンマもんちゃうの？」

流「いえ、これは「工芸画」ですね。間違いないです」

サラリと告げるホームズさんに、村上さんは急に力が抜けたように肩を落とした。

「工芸画」がなんのことか分からないけど、どうやらニセモノだったらしい。

(......なぁんだ)

村上さんって人と同様、俺も少しガッカリしてしまった。