♯ ページ43
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9月22日の昼前。産婦人科の駐車場で緊張と期待感を持ちながらAと赤ちゃんが出てくるのを待つ。Aから息子の写真や動画を送られてくる度に2人に触れたくて、会いたくて仕方がなかった。
入口から一際背の高い女性が出てくる。顔半分をマスクで身を包み、入院用のリュックサックを背負い、両手には白のかたまりを抱く。
キョロキョロと誰かを探すように辺りを見渡せば、車を見つけてマスク越しでも分かるくらいにっこりと笑う。
『亮! ただいま!』
「おかえり!」
車へ乗り込んだ彼女を抱きしめる。人生で1番長い1週間だった。彼女のいない生活が寂しい。ご飯も美味しく感じなかった。気持ちよく寝れたのも寝不足から解放された1日だけだ。
「誕生日おめでとう」
『ありがとう』
「出産お疲れ様。帰って来てくれて本当にありがとう」
『こちらこそ待っててくれてありがとう』
2人で小さな我が子を見つめる。生まれた直後から会いに行きたかった。Aが苦労している時に助けてあげられずにもどかしい気持ちでいっぱいになった。でもずっと会いたかった新しい命はここにいる。
「動いてる……、寝てる……!」
ふにゃふにゃだ。手が小さく、袖口から覗く手首が恐ろしい程に細い。
『抱っこする?』
「いいの……?」
『もちろん! パパ、頑張って!』
Aから我が子を受け取る。温かく、軽いのにずっしりと重い。命の重さを実感させる我が子が愛おしい。Aとの子だからより一層愛おしい。
「可愛い……。可愛すぎる」
セレモニードレスに身を包む我が子は世界一可愛い。どの赤ちゃんも可愛いけどいざ生まれると我が子が1番だ。俺はきっと親バカになる。
「初めまして、お父さんだよ。これからよろしくねえ……」
溢れそうになる涙を堪え、ぐっすり眠っている我が子に話しかけた。
『帰ろっか』
「うん。あ、A、帰り着いたらプレゼント渡すね」
『やった、楽しみ!』
決して思い通りに行かなかった。でも我が子の誕生は確実に俺とAの絆を強くした。外に出て初めての家族写真を撮る。俺の腕の中で目を覚ました我が子はAにそっくりだった。
Aのように素直で頑張り屋さんで、笑顔が明るい子に育ってほしい。これからの生活に期待で胸を膨らませながら、俺達は車内に戻った。
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みゆし(プロフ) - 最近読ませて頂いてます!パスコードを教えて欲しいです🙇♀️これからも素敵なお話楽しみにしてます (2月11日 11時) (レス) @page40 id: b2f1dffa53 (このIDを非表示/違反報告)
rioyamakawa(プロフ) - この小説の更新待っています! (2019年12月14日 1時) (レス) id: faed70be53 (このIDを非表示/違反報告)
あおやなぎ(プロフ) - rioyamakawaさん» ありがとうございます(;;) これからも頑張ります〜! (2019年7月23日 10時) (レス) id: c05e59e944 (このIDを非表示/違反報告)
rioyamakawa(プロフ) - この小説占ツクの中で1番好きです!!これからも更新楽しみにしています!!! (2019年7月17日 11時) (レス) id: faed70be53 (このIDを非表示/違反報告)
あおやなぎ(プロフ) - たむさん» ありがとうございます(;;) これからも頑張ります!!! (2019年6月30日 23時) (レス) id: c05e59e944 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あおやなぎ | 作成日時:2019年6月27日 22時