パパとママになった日 ページ41
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「亮くん、ちょっと休んだら?」
「いや、大丈夫」
亮くんはもう2日以上寝ていないのだという。寝ていないというか寝れないというか。僕もいつか自分の妻が妊娠し、出産を迎えることになれば落ち着いていられないかもしれない。
いつも冷静で状況を俯瞰できる亮くんが正気を保とうと必死になるのだから。
「さすがの亮も嫁の出産には焦るか……」
徹也が心配そうに亮くんの隣に座る。亮くんは控えの定位置に座ってただ祈り続けている。撮影中はふざけ、気を張るもそれ以外の時間はずっと険しい。
「陣痛始まってから2日も生まれてないんだよ。もしAと赤ちゃんに何かあって連絡できてないなら俺はどうすればいいの?」
亮くんは立ち会いたかったのだという。Aちゃんもまた夫婦2人で赤ちゃんの誕生を見届けたいとの意思があった。でも世の中の混沌が許さなかった。
「心配すぎてどうかなりそう……」
陣痛に悶え、苦しむAちゃんを病院に連れて行き、そのまま1週間も会えない。つい7ヶ月前からの非日常が2人の人生における大きなステージに影を潜めた。
「無事に生まれてほしい……」
端正な顔立ちの下まぶたに薄らとクマが浮かび、目は少し充血している。
亮くんによれば次は生まれたら連絡する、とAちゃんに告げられたらしい。体力が持ちそうになく、口から麻酔を吸入して痛みを和らげる和痛分娩に切り替えようと思う、との報告があった時に教えてくれた。
LINEの電話が鳴り響く。スタジオに緊張感が走る。張り詰めた空気の中、僕は昨日から亮くんの姿をカメラに収めている。
「……もしもし?」
亮くんがiPhoneを取る。電話の主はどうやらAちゃんだ。
『うおっ、真っ暗!』
テレビ電話やで、と笑う。
「あ、ごめん」
耳から離された画面を見ると、青地の薄手のパジャマを着て口元にはマスクを着けたAちゃんがいる。その腕には小さな帽子を被り、真っ白のタオルに包まれた赤ちゃんがいる。
『お待たせしました! 12時32分に生まれたよ!』
一瞬で切れ長の目からポロポロと涙が溢れた。
『3,466gの元気な男の子』
「そっか。ありがとう。本当にありがとう……!」
泣き笑いの亮くんにつられてAちゃんも泣きながら笑っている。夫婦がパパとママになった瞬間を僕は、東海オンエアは立ち会えた。
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みゆし(プロフ) - 最近読ませて頂いてます!パスコードを教えて欲しいです🙇♀️これからも素敵なお話楽しみにしてます (2月11日 11時) (レス) @page40 id: b2f1dffa53 (このIDを非表示/違反報告)
rioyamakawa(プロフ) - この小説の更新待っています! (2019年12月14日 1時) (レス) id: faed70be53 (このIDを非表示/違反報告)
あおやなぎ(プロフ) - rioyamakawaさん» ありがとうございます(;;) これからも頑張ります〜! (2019年7月23日 10時) (レス) id: c05e59e944 (このIDを非表示/違反報告)
rioyamakawa(プロフ) - この小説占ツクの中で1番好きです!!これからも更新楽しみにしています!!! (2019年7月17日 11時) (レス) id: faed70be53 (このIDを非表示/違反報告)
あおやなぎ(プロフ) - たむさん» ありがとうございます(;;) これからも頑張ります!!! (2019年6月30日 23時) (レス) id: c05e59e944 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あおやなぎ | 作成日時:2019年6月27日 22時