深淵の中で手を差し伸べて。:h【リヴァイ】 (ページ31)

今日:9 hit、昨日:35 hit、合計:21,124 hit

30-50 ページ31

陽だまりの中にいるような、温かな感覚に目を伏せた。

「言ってくれるじゃねぇか。」

「……っ」

嗚呼、俺は今まで何に対して怯えていたのだろう。彼女はこんなにも真っ直ぐに向き合っていてくれていたというのに。

「……！」

それは無意識だった。

「…っ、ジゼル。」

頭で考えるよりも、先に、

「……ッ！初めて、名前を…？」

体が目の前の小さなものを抱き締めていた。

離れないように、離れることのないように、

「────俺の生きる希望はジゼル、お前だ。」

「……リヴァイ兵士長、」

真っ白な頬に汚れの知らない雫が伝う。いつの間にか誰もいなくなった倉庫の中で、その声は鼓膜を刺激した。

2人だけの世界。
2人だけの、空間。

窓は蒸気で曇り、部屋は熱いほどに温まっていた。何が正解で何が不正解なのかも分からない理不尽な世界で、たった一つ。

「────好きだ。」

「……っ、狡い。」

「ああ、悪い。」

「……あたしも、…好きです。リヴァイ、兵士長。」

どうしようもなく愛おしい女を、力強く、優しく、腕に抱いた。