ワガママ (ページ20)

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·

＿＿岸

頭が痛くなるほどの冷たい空気は去って

肌をさすくらい暑い季節がやってきた

そして、今日からツアーが始まる

コロナ禍で二年ぶりとなる有観客でのライブ

声は聞けなくても久々にティアラの皆の顔が見れるだけで、

それだけで俺のテンションはフツフツと上がっていく

「海人ー、メイク終わったー」

海「ん、OKー。じゃあ行こっかなー」

「··········よいしょっ、」

岸「ん？紫耀どした？」

「········ん？んーん別に」

岸「········そか」

気づけばあれから1年が経っていた

Aから手紙が届いた紫耀の誕生日

あの日、俺にだけ話してくれた事がある

打ち合わせ後、メンバーやスタッフが次々帰宅していく

俺も個人的な打ち合わせを終えて荷物をまとめていると

「············ごめん岸くん、ちょっと、時間ある？」

岸「··········うん、大丈夫だよ」

気がつけば2人になっていた打ち合わせ室

既に準備を終えた紫耀が声をかけてきた

「·················ねえ、岸くん、」

岸「·············うん」

「·····················ごめんｯ、なんか、頭ごっちゃでｯ、」

岸「·········紫耀、」

「············もう、分かんねーよｯ、、笑」

さすっている背中は逞しさなんてこれっぽっちも無くて

まるで小さな子供の背中のようだった

震えが増していくその背中

それはやがて不規則な呼吸へと変わっていこうとしていた

岸「紫耀！？」

「········ｯ、ﾋｯ、！きｯ、しくｯ、、」

岸「大丈夫！大丈夫だから！」

自分で言ってハッと思った

大丈夫ってなんだ。大丈夫じゃないから、もう限界だから紫耀はこうにまでなってしまってるのに

岸「·······紫耀？俺は、諦めないから」

「·······ｯ、ﾊｯ、、ﾊｯ、、」

岸「········あいつさ、Aは、お前のことめっちゃ好きなんだよ」

徐々に落ち着いていく紫耀

岸「··········だからさ、無理して諦めようとするなよ」

「·········ｯ、きし、くん、」

岸「·····やばくなったらさ、いや、その前に俺のとこきてよ」

「··········ありがとｯ、きしくｯ、」

あれから紫耀はなにも言わずに俺の隣に来る時がある

それからは笑顔が増えていったとおもう

逆に、こんなことしか出来ない自分の不甲斐なさに心の中でため息をついた