こっち向いて、私を見て【九井一】

6 ページ8

*



「………あのさ、二人にお願いがあるんだけど」



死んだ姉にそっくりの彼女が上目使いでお願い事とやらをしてくる。



「私が万次郎の従兄弟ってことは内密で……」



なんでも前の学校では無敵のマイキーの従兄弟だからとなかなか「彼氏」が出来なかったらしい。学校に何しに来てんだと思ったが黙っておいた。


チラリとココの様子を伺えばやっぱりまだ疑っているのか。赤音にそっくりな上に、声も瓜二つ。多分本人の中で収集がついていない、そんな顔をしている。



「佐野さん」

「Aでいいよ」



えへへ、と笑っている姿も死んだ姉にそっくりだった。けれど、いくらそっくりでも赤音とは違う人間だ。目の前にいるのは佐野Aなんだ。



「じゃあAで」

「うん。じゃあ私はなんて呼ぼうかな。青宗？」



ーーー『青宗』


違う人間だってわかっているのに。
名前で呼ばれると姉に、赤音に呼んでもらえている気がして嬉しくなる。



「いや、イヌピーでいい」

「そっか。じゃあイヌピー」



可愛いあだ名だねスヌーピーみたいと笑っている。屈託なく笑うAは、ココを見て「九井一くんはなんて呼ぼうか」とコテンと首を傾げた。



「はじ、」
「九井でいい。名前で呼ぶな」

「あ、はい。じゃあ九井くんで」




そりゃあそうだよな、赤音はココのことを「一くん」って呼んでたし。同じ顔、同じ声で呼ばれるのが一番ココを苦しめる。



「A、帰るぞ」

「あ、待って万次郎！！後ろ乗せて！」



性格は全くの真逆で、赤音には一ミリたりとも似てないけれど。赤音とは違って、生きて笑っているかの日を見られるのは心なしか嬉しかった。



.

7→←5

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す