こっち向いて、私を見て【九井一】

35 ページ37

*



「ほら、食いてぇもん頼めよ」

「もうお腹いっぱい」



レストランに連行されてメニュー表を渡される。
すでにお腹いっぱいだ。九井くんにまるでお姫様のように連行(俵担ぎ)されて、颯爽と集会抜けて。



「ねぇ今日約束してたっけ？」

「してねぇな」



イヌピーに質問をすれば、すぐに返事が返ってくる。
九井くんをみて「嬉しい」と笑うとわかりやすく顔を逸らされた。


携帯がさっきからうるさいから漸く見てやれば、メールが10件以上来ていた。
一通は万次郎で「九井にどこに連行されてんの？」、ドラケンからは「お前うるせぇからもう集会来んな」、三ツ谷からは「お前のせいで場地が暴れまくってんだけど」。残りのメールは全て圭介からだった。



「圭介が九井くんのせいで暴れてるって」

「知らね」



メールの返信でもしておこうと携帯をカチカチしていると、ちょうど圭介から電話が来た。出た途端に「てめぇぶっ殺すぞ！」と脅し文句が聞こえてくる。


ヒェッと喉が鳴る。仮にも私は圭介の好きな人なんじゃないの？ガチトーンすぎて私はどこか対抗暴走族か何かになった気分だ。



「どこにいんだよ！！！」

「………言わなきゃダメ？」



「場地落ち着け！」と三ツ谷やドラケンの声が聞こえてくる。どんだけこの子暴れてんだ、それに加えて万次郎の笑い声まで聞こえてくる。


苦笑い浮かべながら困っていると、九井くんが私の携帯を取り上げて、「うるせぇな場地」と言うと構わず通話を切った。



「あーあ、ここまで来ると圭介がうちに乗り込んで来そうで怖い」

「じゃあ帰らなければいいだろ」

「なにそれ私を帰したくない！みたいな？」

「調子乗んな」

「すみません」



メニューを広げて、食べたいものをたくさん頼んだ。たくさん食べていれば、九井くんは「大食い女」と私をみて笑った。


その日、初めて九井くんが笑った顔を見た。



.

36→←34

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す