こっち向いて、私を見て【九井一】

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「付き合うってビヨーシツかよ。染めるんなら自分で染めろや」



まあまあと私を睨んでくる圭介を宥めて、そこで待っててと伝える。圭介は単語帳をポケットから取り出すとそれを見て勉強していた。


あのビジュアルで単語帳開いているんだもん。
可愛いんだよねホント。



「今日はどうしますか？」

「髪の色戻そうと思って」

「え、どうしたんですか急に」



髪の毛先を手に取って弄ぶ。

もともとこの髪の毛の色は地毛の色じゃない。エマが佐野家にきたばかりの頃に染めたものだった。外国人のような容姿にどことなくコンプレックスを抱いていたから。


マイキーって愛称もそうだ。エマのために万次郎が自分なりに考えたもの。万次郎がエマのために考えたんだから、私は髪の毛を染めてエマと同じような髪色に寄せた。



「………私、好きな人が出来たんです」

「え！じゃあ失恋したのか！」

「まだ決まってない！ただ初恋の人に似ているって言われたから少しでも違う姿でアタックしてやろうと思って」



長年私の担当をしてくれていた美容師さんは「そっか健気だね」と言った。髪の毛に触れては「じゃあ綺麗な黒髪に戻そうか」と声をかける。



「あ、でも色戻すって言っても真っ黒は嫌！この色！この色がいい！」

「それは髪色戻すとは言わないね。ただ髪の色変えるだけだね」

「そうとも言う！」



任せて！という彼ににっこり笑った。

2時間後、染め上がってサラサラになった髪の毛を巻いてもらう。2時間圭介は黙って単語帳で勉強していたらしい。えらい、えらいぞ圭介と褒めてやる。



「なんで髪の色変えたんだよ。エマのために染めてたんだろ」

「気分転換かな」

「ま、いーわ。そっちも似合ってるし」



「カワイイな」と笑う圭介に「圭介も可愛いよ」と教えてあげた。


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