446、薮 宏太 ページ25
『こんばんは、宏太君。遅くなってゴメンね?』
「いやいや、皆に会ってきたんでしょ?俺が最後になるだろうな〜とは思ってたから。」
『流石執事長。ありがと。』
宏太君に促されて、宏太君の部屋に入る。
「紅茶でいい?…って、きくまでもないか。Aお嬢様は昔っから紅茶好きですもんね。」
『宏太君の淹れ方が上手かったからだよ。』
慣れた手つきで紅茶を淹れる宏太君を見てると、幼い頃の記憶と重なる。
『…本当に、宏太君には感謝してる。』
「え?」
『…いつも、冷静でいてくれて、嫌われ役になってくれて…。宏太君に何度も助けられた。』
「そう、ですかね?俺は自分のことで精一杯で…。」
目の前のテーブルに宏太君が淹れた紅茶が置かれる。
「俺、今でもちょっと迷ってるんですよ。」
『え。』
宏太君は割と協力的だったのに…今になってそんなことを…!?
…ていうか、紅茶滅茶苦茶美味しいんだけど!?
流石宏太君!!
「ああ、でも。反対とかじゃなくて。俺は山田のこともAお嬢様のことも昔から見てきましたから、お二人のことをよく知ってます。でも、Aお嬢様の義理のお父様と、お母様、お姉様がどんな性格か…Aお嬢様もよくわかっているでしょう?」
『…やっぱり宏太君は優しいね。涼介や私のことを信用してないんじゃない。一手、二手先まで予想して…私達が傷つかないように…そこを心配してくれてるんだ?』
「…Aお嬢様もだいぶ鋭くなられましたね。その通りですよ。」
昔からちょっと心配症っぽいところあったもんなぁ、宏太君。
「でもそんな心配いりませんでしたね。…今のAお嬢様の表情見てたら、なんの確証もないのに、大丈夫だって思えてきました。Aお嬢様ならきっと、お義父様とお義母様とお義姉様も説得できますね。」
宏太君は私と目を合わせて安心するあの笑顔で微笑んでくれた。
「…俺はずっと二人の味方だから。この言葉だけは、薮宏太として言わせて。頑張れ、A。」
…ああ、宏太君に呼び捨てで呼ばれるなんて、一体いつぶりだろう。
もしかしたらはじめてかもしれない。
私の記憶の中の宏太君はいつも敬語で、私のこともお嬢様としか呼んでくれなかった。
立場上、それが普通なんだけど…。
けれど、今はそう呼ばれたことがすごく嬉しかった。
『うん、ありがとう。宏太君。』
宏太君が淹れてくれた紅茶を飲んだら、勇気が湧いてきた気がした。
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作者名:さくらもち | 作成日時:2017年5月10日 18時