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「…あ、私そろそろ帰らなきゃ!」
スマホで時間を見たAが焦って言う。そんなAを見かねて、
「…冬弥、送ってあげたら?」
と、杏が提案した。
「え、でもみんなでこれから反省会とかするんでしょ?申し訳ないし大丈夫だよ!」
「私は特に気にしないよ!こはねと彰人は?」
「私も!青柳くんが送るなら安心だね!」
「ま、反省は明日でいいからA送ってやれよ」
「ああ、ありがとう」
トントン拍子で話が進み、冬弥とAは帰路に着いた。
「なんかごめんね…。またこんな事になっちゃって」
「もう夜だし、この辺りは特に暗いからな。1人で帰るより2人の方が良いだろう」
「青柳くんは優しいね、ありがとう!」
ぱっと花のように笑うAに冬弥は愛しさを感じた。
「いいな〜、私もあんな風に誰かと歌ってみたいな」
ボソッと呟かれた言葉に冬弥は首を捻る。
「…俺とでは不満だろうか?」
「あ、いやいやそう言う訳じゃなくて!青柳くんとのセッションめっちゃ楽しくて好きだよ!」
「そうか!よかった…」
「ただ今日のライブみたいに、私ももっと多くの人に私のピアノを聞いてほしいなー、って思ったの」
「多くの人に、か?」
「うん。…私はずっと1人でピアノを弾いてたから」
そう言ったAの顔は少しだけ悲しそうだった。
「(…江夏はあの音楽室で、ずっと1人だったのか)」
たった1人で、あの広い音楽室で炭酸の様な音を奏でて居たのなら。
その光景は、少し寂しいものだった。
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作者名:レノ | 作成日時:2022年5月7日 23時