第3章 浮上する泡 ページ22
「…これが次のイベントのチケットだ。用事とかは無いだろうか」
「全然無いよ!かなり暇してるからいつでも誘って!」
「そうか。ならよかった」
「んじゃあ今日も早速やりますか!」
そう言って始まった最早恒例の即興セッション。
この時間だけは、冬弥は全てを忘れて歌に没頭できた。
頭の中が澄んだ様な感覚になり、気づいたら旋律を口ずさんでいる。
心が踊るような、少し酔っているような、そんな感覚になるのだ。
ふとAに目を向ける。
Aは心底楽しそうな笑みを浮かべてピアノを弾き続ける。
「(…楽しんでくれてるのか)」
冬弥はその笑顔がたまらなく嬉しくなる。
「…ふう、今日はこんなところでしょ!」
楽しかった〜、とAは冬弥が腰掛けていた隣の椅子に座る。
「…青柳くんのライブ、楽しみだなぁ」
「楽しみにしてくれてるなら、その期待に応えなければな」
「えへへ、でも私もし後ろの方行ったら見える自信ないよ…」
しおしおと机の上に伏せるA。
そんな姿に冬弥は笑みを浮かべながら、
「なら、俺は江夏が見えるように背伸びして歌わなければな」
と、普段口にしない冗談を言う。
「そこまで小さくないよ!」
むっとしたように言うAに冬弥はくすくすと笑う。
「すまない。でも俺はグループの中では1番背が高いから、後ろからでも見えると思うぞ」
「おおー!そうなんだ!確かに青柳くん背高いもんね!」
じゃあ、とAは冬弥を見つめて笑う。
「青柳くんのこと、ずっと見てるね」
「…!」
胸が熱くなるのを感じた。
Aからしたら何気ない一言かもしれないが、冬弥はその言葉で柄にもなく舞い上がりそうな気持ちになっていた。
「(俺は最近、変だな)」
Aの言葉や行動1つでこんなにも心が揺さぶられる。
「(でも…)」
悪い気分でないことは、確かに分かる。
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作者名:レノ | 作成日時:2022年5月7日 23時