月に恋せよ暦ガール 【4】

月恋 第148話 「心に沁みる」 ページ6

「あの、何で雪さんと千桜さんが此方に?」

ずっとファンであったアイドルユニットの方に風邪を引いた情けない姿を見られ、熱におかされて見えた幻覚のせいとは言え、普通では有り得ないほど非日常的な叫びを聞かれた。

暦屋 A、一生の不覚である。穴があったら入りたいとはまさにこの事なのだが、この場に人が一人入れるような丁度良い穴等何処にも存在しない。

あるのは布団だけ。布団に潜っても良いのだが、流石に先輩方の前でその様な失礼な態度を取れる訳がない。

けれど恥ずかしさのあまり、雪さん達の端正なお顔がまともに見れなくなって、思わず秋に色づかせる紅葉の様に真っ赤に染まりきった自分の顔を俯かせる。

ああ、恥ずかしい。

人は第一印象が肝心だと言うのに、此れでは私の第一印象が変な事務所の後輩認定されてしまうではないか。

「勝手に部屋に入ってしまってごめんなさいね、Aちゃん。黒月さんから貴方が熱を出したと聞いて、少しの間だけ私と千桜の二人で貴方のお世話をさせて貰うことにしたの」

一人で悶々と考えている私を余所に、雪さんはにっこりと優しく上品な笑顔を浮かべる。

「いえ、ありがとうございます! えっと、もしかしなくとも私の服も雪さん達が?」

「そうだよー! こよみんの着替えを男子達には任せられないからね!」

漸く顔の赤みが引き、雪さん達の方へと視線を合わせられるようになった私に千桜さんが答える。

相も変わらず可愛い笑顔。テレビの画面越しで観るより何倍も可憐で眩しいくらいだ。

「すみません!大変御迷惑を御掛けしたみたいで………」

私はそんな方達に何と言う御迷惑をお掛けしたのか。再び後悔の念に囚われる。

雪さんはそんな私の負の感情を拭い去るかのように――――

「そんなに気にしないで?可愛い後輩の面倒を見るのは先輩である私達の役目であり、楽しみの一つでもあるんだから」

そう言ってまた、美しくも愛嬌のある笑顔を見せたのであった。

あ、駄目だ。流石は完全無欠の女王様であり、Flunaを纏めるしっかり者のリーダー。格好良い。

人に気を遣わせない優しさが心に沁みる。

「おー! 雪さん超格好良い!」

私のそんな不安を余所に、雪さんの隣でヒューヒューと煽てている千桜さん。

普段は素直で明るくて可愛い貴方も、ステージの上で歌を歌っているときの真剣な表情が凄く格好良いですよ。なんて言葉は、恥ずかしくて伝えることが出来なかった。

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