月恋 第173話 「淡い想い出」 ページ31
普段仕事が忙しくて全く家に居ないと言うのに口うるさく、よく母を伝って私の行動にいちいち口を出してきた父に散々駄々を捏ね、1度だけ夏祭りへ行かせて貰ったことがある。
それは丁度、体が弱く、入退院を繰り返していた母の再入院が決定したばかりなうえ、父も仕事の出張が重なってしまっていた時で。まだ小学校に上がったばかりの幼い私を、両親の代わりに祭りへ連れていってくれたのは少しだけ年の離れた幼馴染みであった。
近所に住んでいると言う訳でもなく、彼の実家も遠いところにあると言っていたうえ、彼が住んでいるのは東京。
元音楽大学の教授であり、それなりに名のあるバイオリニストであった母の数少ない友人である彼のお母さんと共に休みの日になると必ず、わざわざ東京からうちへ訪れ、小さな私と遊んでくれていた不器用な優しさをもったお兄さんだった。
そのお兄さんと手を繋ぎ、カランコロンと下駄を踏み鳴らしてお祭りへ出掛けた日。私は今現在、自分の隣に座っている少女みたいに下駄の鼻緒が切れ、靴擦れもしてその痛さのあまりに大泣き。今となっては目も当てられない失態である。
泣き止む気配の無かった私を慌てて背負い、お社前にある階段へ座らせる。そして手早く鼻緒を直してから、少し待ってろと手短に告げて、走って買ってきてくれたのがりんご飴だったのだ。
生まれて初めて見るそれはまるで、真っ暗な夜の中に赤く光る宝石みたいで、私の瞳の中ではより一層輝いて見えていた。
一口かじれば、林檎の甘酸っぱさと食紅で色づいた飴の甘さが一気に広がった。私はその美味しさに気を取られ、先程までビャービャー泣いていたのが嘘みたいに、たちまち笑顔になっていたのである。
そんな小さい頃のことを思い出し、懐かしいなぁ、と石段に座って、あの時の私の様に美味しそうにりんご飴を食べている少女を感慨深く眺めていると―――――
「Aー!!」
遠くの方から私の名前を呼ぶ海さんの声が聞こえてきた。
月恋 第174話 「鈴の音が鳴り響く」→←月恋 第172話 「りんごあめ」
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櫻餅(プロフ) - ♯鈴音色♭さん» コメント有難う御座います!お話だけでなく夢主までも好きだと言って頂けて嬉しい限りです。また少しずつですが更新していきたいと思っておりますので、続編も宜しくお願い致します! (2018年11月5日 18時) (レス) id: c0a9d4f092 (このIDを非表示/違反報告)
♯鈴音色♭(プロフ) - 桜餅さんおかえりなさいです! このお話も主人公ちゃんも大好きなので、続編お待ちしています!! (2018年11月5日 17時) (レス) id: b160fc2e68 (このIDを非表示/違反報告)
櫻餅(プロフ) - 深海さん» 返信が遅くなってしまい申し訳無いです。朏さんとのお話は自分も楽しく書いていたので、そう言って頂けて大変嬉しい限りです。中々更新が最近出来ていませんが頑張って行きたいと思います。コメント有難う御座いましたm(__)m (2018年8月27日 20時) (レス) id: fb6a326e77 (このIDを非表示/違反報告)
深海(プロフ) - 読んでいてとても楽しくなりました。特に朏さんの辺りの話が好きです。これからも楽しみにしています、更新頑張ってください。 (2018年8月25日 0時) (レス) id: 5947186a26 (このIDを非表示/違反報告)
ピヨコ - 丁寧に教えてくださって有難うございます。成程、私も試してみます。これからも頑張って下さい。応援しています。 (2018年8月4日 9時) (レス) id: 0464d791fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:櫻餅 | 作成日時:2018年4月15日 23時