月恋 第172話 「りんごあめ」 ページ30
「だ、誰もいない………」
可愛らしい少女と手を繋ぎ、境内を一周してみるも私達以外、人っ子一人いないこの状況に先程まで以上の焦りを抱く。
頭上にずらりと並ぶ赤提灯に、何処から聞こえるのか、誰が弾いているかも分からない祭囃子。そして何処へ行くにも人がいてガヤガヤと騒がしかった筈の道は静まり返っている。しかも、そんな出来事が起こったのは古く歴史ある神社の境内。
ホラーの予感しかない。
普段、テレビで観たり話を聞いたりする分だけならばオカルト系は苦手でもないし、怖くもない。勿論、お化け屋敷も平気。だが実際、自分がホラー体験をしていると思うと背筋が凍るし、普通に怖いのだ。
今、この場に居るのは私とこの女の子だけ。自分よりも年下の少女を頼るのはどうかと思うし、どちらかと言うと私がこの子を守る立場にある。詰まり、頑張ればならぬのは私である。
頑張らなきゃと思うほど焦燥感が増し、背中にやけに冷たい汗が伝う。
私の心の不安を敏感に感じ取ったのか、女の子は此方を心配そうに見詰めてきた。
いかんいかん、自分が今弱気になってどうする。弱気になり始める自分を奮い立たせ、「大丈夫だよ」と少女に笑って見せた。
それからまた、誰か人が居ないのか。そしてこの状況から脱するための何か手掛かりが無いのかを探すため歩き回る。
途中で少女の下駄の鼻緒が切れてしまい、結び直すも彼女の足の親指と人差し指の間が真っ赤になってしまっていたため、彼女を背負うことに。
遠慮がちな少女に、「お姉ちゃん力持ちだから遠慮しないで。足、痛いでしょ?」と言って背中に乗ってもらった。
境内の奥の方までやって来ると、そこには古いけれど大きなお社があり、そこで少し休むことにした。
お社の階段で彼女を下ろし、二人並んで座り込む。
流石にお社の方には提灯が並んでおらず、真っ暗で。離れたとこれにある参道から差し込む、ぼんやりとした明かりを便りに周囲を確認するも誰もいない。
遠巻きに聞こえる祭囃子を耳に、少女に視線を移した。そして何処か元気の無い彼女に持っていたりんご飴を差し出す。
「りんご飴は好き?」
少女はコクりと頷き、目の前に差し出されたりんご飴を嬉しそうに手に取った。浴衣の少女と宝石の様に輝く真っ赤なりんご飴。
その光景を見て、ふと思い出した。
まだ母が亡くなる前、私が6つになるかならないかくらいの頃、一回りも年の離れた所謂幼馴染と一緒に地元のお祭りへ出掛けたことを。
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櫻餅(プロフ) - ♯鈴音色♭さん» コメント有難う御座います!お話だけでなく夢主までも好きだと言って頂けて嬉しい限りです。また少しずつですが更新していきたいと思っておりますので、続編も宜しくお願い致します! (2018年11月5日 18時) (レス) id: c0a9d4f092 (このIDを非表示/違反報告)
♯鈴音色♭(プロフ) - 桜餅さんおかえりなさいです! このお話も主人公ちゃんも大好きなので、続編お待ちしています!! (2018年11月5日 17時) (レス) id: b160fc2e68 (このIDを非表示/違反報告)
櫻餅(プロフ) - 深海さん» 返信が遅くなってしまい申し訳無いです。朏さんとのお話は自分も楽しく書いていたので、そう言って頂けて大変嬉しい限りです。中々更新が最近出来ていませんが頑張って行きたいと思います。コメント有難う御座いましたm(__)m (2018年8月27日 20時) (レス) id: fb6a326e77 (このIDを非表示/違反報告)
深海(プロフ) - 読んでいてとても楽しくなりました。特に朏さんの辺りの話が好きです。これからも楽しみにしています、更新頑張ってください。 (2018年8月25日 0時) (レス) id: 5947186a26 (このIDを非表示/違反報告)
ピヨコ - 丁寧に教えてくださって有難うございます。成程、私も試してみます。これからも頑張って下さい。応援しています。 (2018年8月4日 9時) (レス) id: 0464d791fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:櫻餅 | 作成日時:2018年4月15日 23時