88 ページ38
「どうした？」
「なんでもないですって。」
なんか痛みとか言うたらまた医者に連行されそうで怖いやん。天井に向けて紫煙を吐き出すとセンセは小さい声で言うたのは意外な言葉やった。
「医者なんかになりたくなかった。」
「え……」
「医者は確かにとてもいい仕事やと思う。でも、俺は小学校の先生になりたくてな。」
「小学校？」
「小学校の時に出会った先生が尊敬できる人やった。俺もそんな先生になりたいって思っていたのに、気が付いたら医者になっていた。」
「気が付いたら医者って恐ろしい。」
思わず笑って言うと「そうやな。」なんて言いペットボトルの水を飲んでから言う。
「ちゃんと勉強はしたで？小学校の先生にはなれへんけど、子供に向き合う仕事で小児科医目指したねん。親は内科医なれとか言うたけど、俺は子供に向き合いたかったん。ま、親が背後におるけどな。」
「親がうるさそう。」
「うるさそう。ちゃうで、うるさいのが正解な。」
「マジやばいやん。」
「たまに、あの時親に反抗して小学校教師なってたらどうなってんかな……そう思う事たまにあるん。信五に言うたら似合わへん！って言われたけどな。」
……痛い
だんだん、痛みの原因がわかってきそうな気がする。
「ちょっと前に。」
俺は煙草を灰皿に押し付けてると、センセは俺をじっと見てくる。
「村上さんに先生との関係カミングアウトされたんです。」
「はぁ？」
「すば るくんと丸山さんと俺らは同じでいい関係だって。」
月明かりがカーテンに当たりはじめる。
酔って顔が赤いんじゃない、今の言葉で顔を赤らめているのが俺にわかった。
あぁ……痛みはこのセンセの話をすると痛いんや。
センセから大事な人の名前を聞くと痛いんや。
「すごいですね。」
「すごいんか？腐れ縁や。」
「腐れ縁でもそうやって……繋がっている。」
「大倉は恋人はおらんのか？ヒモで厄介でなく、ちゃんとした恋人は？」
名前を呼ばれて痛み
恋人と言われての痛み
なにこの異常な苦しさ
「出来るわけない。」
俺は振り絞るように言葉を言う。
苦しい
苦しい
自分で話したのにこんなに苦しいなんて
「大倉……どうした？」
「俺は……」
「大倉？」
言葉が出ず胸元を押さえ俺は前かがみになる。
苦しい
息苦し
もう嫌や
センセの手の影が見えた時やった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 72人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：瀬奈 | 作成日時：2020年11月17日 16時
