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「タクシー呼びますよ、先生。」
「あ……あぁ。でも、今乗ったら吐くな。さっきのタクシーのおやじの運転荒くてやばい。」
非常に怖い事言うてへん?ここでリバースだけはやめてくださいって、ほんまに。
「水分用意しましょうか?」
素直に頷かれて常温の水を渡すと不思議そうにこっちを見た。
「多分、冷たいの胃に入れたらリバースしますから常温で驚かせない方がええっすよ。」
「慣れているな。」
「クラブで毎回片付けしていたから。」
「経験者か。」
ハンガーに脱がせたものをかけてからポケットに入ったままのスマホを出して枕元に置いておく。
「彼女か、お前は。」
「なんで?」
「至れり尽くせり。」
「朝早くにスマホないって踏みつぶされたくないだけです。」
小さく笑って水分補給しているセンセを一度見てから俺は片づけを終えてからどうすればいいか分からず布団の上に座る。
なんだ……妙に緊張する。
会話が出来ず無言。
「なんやねん。」
「いえ、先生も酔っぱらうんやなって。」
「そりゃ、酔いたいときもあるで?大倉は酔わないん?」
「……酔いますよ。」
妙な痛みはずっと続いていて、センセと話すのが嫌や。
むっちゃ痛い……
息を吐き出したときやった
「すば るは知ってるんやな。」
.
「え……何?」
「背中の。」
急にそんなことを言われて俺は「まぁ……」なんて濁した言い方をする。
「さっきタクシーで聞いたん。大倉の担当した医者が背中の件を聞いたって言うたら激怒してな。」
「別にすば るくんが怒ることちゃうのに。」
「それだけ心配しているんやな。」
ペットボトルをいじりながら言われて俺は灰皿を寄せてから煙草を銜える。
ライターを床に置いてから息を吐き出すと、センセはずっと俺を見て……その視線がしんどい。
「なんです、俺の顔になんかついてます?」
「いや。」
「見られるの慣れてへんから。」
思わず笑って言うと「嘘つけ。」なんて言い返されてしまう。
ほんまやって。
そう言いたいけど俺は言えない。
寝るにも寝れない状況に俺は今いる。
傷の部分を少し触る。
ずっとこの傷が痛いと思っていたのに、痛みはここじゃない。
どこや?
.
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作者名:瀬奈 | 作成日時:2020年11月17日 16時