訪れる運命の日は ページ32
来たる12月8日は
吠舞羅の紅一点
お姫様である
櫛名アンナの誕生日である
盛大なパーティにしようと盛り上がる一同をチラリと見て
紫城は机に伏せた
うつらうつらと眠気に誘われても
すぐに目を覚ます
汗が額を伝い
目の下に浮かぶ隈
「(心臓が、痛い)」
ざわざわと胸騒ぎ
鮮明に見え始める、その日
あと何日
あと何時間
いったい、いつ
「A!」
「っ…あ、何?」
十束に肩を引かれ顔を上げた紫城が
ハッとして笑みを浮かべる
どうやらサプライズパーティの内容が決まったらしい
もちろんアンナに隠し事なんて不可能なので
彼女が気付いていないフリをしてくれるだけになるのだが、八田の予想を上回るサプライズにしようという案は採用
「アンナの誕生日当日に、皆で1本ずつバラを渡すことになったんだ。
Aも、それとは別で何か用意する?」
皆で1本ずつ
何本も集まったバラは、最後にはアンナの腕の中で花束になる
これは草薙の案だ
十束に何かほかに用意するか、と問われて紫城は思考を巡らせた
「…うん、用意するよ」
候補はいくつかあった
皆がそれぞれ準備に取り掛る中
紫城がしつこいくらい十束について回るのを、さすがに周りも不審に思い始めたが
頑なに、その服の裾を離したがらない彼は迷子の子供にも見えて
誰も、何も言わなかった
この時期
町には赤い光が点々としていた
端末の光で、“キャンドル”というアプリを使っている
飛行船に送るサインとなり
何か辛いことがあった人間が飛行船に向けると
地上から掬い上げてくれる
という都市伝説
第1王権者、白銀の王が乗る飛行船
「俺は
あんたがいて
みんながいる
この地上にしか、興味はないよ」
そう周防に言った十束の言葉が
傍らで聞いていた紫城の耳に、やけに残った
「キャンドル…」
「ん?A、興味あるの?」
ぽつりと落とされた声をしっかりと拾った十束が紫城に振り返ると
彼は否定を示す様に首を振った
「俺は…」
もしも
もしもその都市伝説が本当だとしても
なにか辛いことがあったって
「俺は、掬い上げてなんて、欲しくない」
そんな一時的な救いは求めたりしない
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作者名:鍵宮 | 作成日時:2019年7月9日 19時