手離す覚悟と調和 ページ31
特にやることも無い
2人の間には会話も多くはない
以前までの紫城であれば
あれを食べてみたい
あそこに寄ってみたい
あれ取って
そう伏見にせがむこともしたであろう
ちらりと視線を向けて
興味が向いても口にはせずに目を背けて
紫城は時折耳を塞ぐ
その日も数時間歩いて別れる
次の予定を確認して、会う日と場所を決める
そのはずだった
「伏見、ありがと」
「…あ？」
「もう、今日で最後でいいよ。
そのつもりだった」
突然の言葉だった
そんな予兆なかっただろう
これからどうするつもりなんだ
今も、ただでさえ内面はボロボロなのに
それでも
どこか諦めにも似た笑みで礼を告げた紫城に、伏見はこれまでしてこなかった問いを投げかけた
「なぁ。
どうして、俺だったんだ。十束さんで、良かっただろ」
核心を突いた言葉に、紫城は目を伏せて
それからゆっくりと呼吸を整えて、首を横に振った
「炎の調和は、十束の得意分野だから。
大丈夫。これまで伏見と会っていろいろ試せたから。
自分で、対処出来るよ。
自分以外もきっと」
「質問の答えに…」
「十束には、頼れない。
前に言ったよな。時間が、ないんだよ」
十束ではなく伏見に
自分で対処できるように
誰かに頼らない様に
最悪の結末が来た時
自分の役割は、もう決まっていた
「伏見、俺ね
ストレインとして特異だったんだって。
この力は不確定で
周りに危害を加えるってそう聞いてた。実際そうだった。
俺自身を守る為に、周りが傷ついたりして
不幸の象徴だ、近付くなって。
でもね、違ったんだ」
「違った？」
「俺自身が傷つけば傷付いただけ
能力は自由に扱えるようになる。
未来を思う様に見られるようになれば、確かに俺は預言者になれるだろう。
その日
俺の存在の
全てが決まるんだ」
今までのセンターの診断結果から
紫城自身が、全てわかっていた
自分の危険性
能力の正確性
「伏見、ありがとう。
今日で最後。
俺は吠舞羅の人間で
お前はセプター4のNo.3。
恩を仇で返すような真似しか出来ないけど
何かあれば青の王様との契約があるから。
だから伏見。
利用してごめんな」
最後にそう笑った紫城の指先が
鎖骨の火傷痕を撫でた
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作者名：鍵宮 | 作成日時：2019年7月9日 19時
