誰にもわからない ページ18
ぐっと奥歯を噛み締めた紫城が
今にも泣き出しそうな表情で十束を見上げた
「A…?」
顰められた眉
震えた唇
ガリッと指先が鎖骨を引っ掻いた
バーから出てきた草薙が
離れた位置にいる十束と紫城を見つけると
そろそろ中へ入るように声をかける
「十束、紫城。
そろそろ中に…」
ドンと紫城が十束を突き飛ばした
たたらを踏んだ十束は、まさか突き飛ばされると思っていなかったのだろう
少しばかり無神経なことを言った自覚はあった
彼の触れられたくない部分に触れたのもわかっていたが
紫城が拒絶をはっきりと表すとは思わなかったのだ
「強さって何…。
俺のことなんて、誰にもわからない。
どうして、よりにもよって、お前がそんなこと言うんだよ。
俺が、どんな気持ちでっ…
なんとかなるって
お前がそう言う度に、俺がどんな気持ちでいるか…」
「A…」
「お前にはお前の気持ちがあるよ。
草薙さんには草薙さんなりの予感があるだろうさ。
八田だって、みんな色々抱えてる。
その気持ちはその人だけのものだ。
その強さも
弱さも
臆病さも
覚悟だって、誰にもわからない。
だから、あれは俺なりの証明なんだ。
それを
お前が否定するなよ!」
十束にだけは
否定して欲しくなかった
お前の為だと言うのが、ただの自己満足で
迷惑かもしれないのはわかっているけれど
紫城は今、それに縋るしかないのだから
だから
「…A。
お節介がたくさんいるんだ。頼ることを、少しでいいから覚えてよ。
1人じゃない
仲間がいるんだ。
それは、知ってるでしょ?」
「…頭、冷やしてくる」
くるりと紫城は踵を返して走り去っていく
その背中を見つめて、十束はため息をついた
「喧嘩か?」
「うーん…喧嘩なら、良かったのかもね」
この日を境に
紫城がバーへ姿を見せる頻度は急激に減った
バーの2階を寝床にしていた紫城だったが
そこへ帰っている様子もなく
それとなく草薙が探りを入れてみれば、返ってきたのは曖昧な答えだけだった
そんな紫城が今まで通りにバーへ姿を見せるようになったのは
それから1ヶ月ほどしてからだった
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作者名:鍵宮 | 作成日時:2019年7月9日 19時