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40話 ページ40

ぱらぱらと紙をめくる音と、ざあという木々のさざめき。
今日は風が気持ちいい。窓枠に腰掛け暖かな日差しの下で本を読む。

『パンセ』と書かれた表紙の本をぱたんと小さく音を立てて閉じた。
簡単に言えば、昔の哲学者が書き綴っていた文献をまとめたもの。
面白味には欠けているが、暇つぶしに学ぶ程度には丁度いい。
使う機会はさほどないだろうけれど。

ふう、と小さなため息をついて本を窓際に移動したコンソールテーブルの上に置いた。

「……いい天気」

雲一つない空を見上げ、目を閉じた。
本当にいい天気。
思わず、眠ってしまいそうな――。

「紫苑ちゃん!」

腕に感じる痛みと、焦ったような大きな声に目を開いた。
後ろを振り返ると、いつの間にか九代目がそこにいた。

「……いつからいたんですか」
「君が空を眺めているときからじゃよ。なぜ、そんな場所に?」

危ないだろうと言いながら手を離した。
……………。

「気配を消して近づかないでください」
「……すまなかった」

ふんと鼻で返し、服のしわを伸ばした。
そこからは無言だった。

九代目も私が不機嫌なのを察してか、何も言わず空を見ていた。
私は相変わらず窓枠に座って読書にふけっている。
風が私の頬を撫でるたび銀に成ってしまった髪がゆらゆらと揺れる。

「紫苑ちゃんは、外にはいかないのかい?」

後ろからそんな声が聞こえた。
外、か。
行こうとは思うが、別に今じゃなくてもいいという思いから部屋の外から出ることもなく、こんな場所でこうやって趣味に没頭してしまう。

昔――前世でも、あまり外に出ることはなかった。
両親からのいいつけもあったが、単に私が独りを好む性格だったからだろう。
あの人にはよく笑われたものだ。心配も、してくれたっけ。

ぼうとそんなことを思い出していると、九代目が「紫苑ちゃん」とまた声をかけてきた。
鬱陶しげに振り向くと、心配そうな眼で私を見ていた。

「気分が悪いんじゃないのかい?」
「……別に」

なぜそんなことを訊いてくるのだろう。
顔色でも悪かったのだろうか。
九代目は何かを呟いて、また今度。といったニュアンスの台詞を残して出ていった。

また静寂が流れる。
本を手に取った。

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- いえいえー当然の事を言っただけですー喜んで貰えて光栄ですよー それと、音域を広げる練習、頑張ってくださいー諦めずに頑張れば報われるはずですからねー ふむ、来月ですかーコトハ@白亜さんの小説は奥が深いのでーワクワクしますねー楽しみにしてますー (2015年8月21日 12時) (レス) id: 7c8a29757a (このIDを非表示/違反報告)
コトハ@白亜(プロフ) - 杏さん» 返信ありがとうございます。そう言っていただけると作ってよかったと思えます…ありがとうございます。なるほど、その方法がありましたね…早速試してみようと思います。アドバイスありがとうございます。せめて再来月までに公開できるよう頑張ります…! (2015年8月20日 18時) (レス) id: 5c05607229 (このIDを非表示/違反報告)
- 大丈夫ですー、ミーも返信遅くなってすみませんー 気に入った作品にコメントするなんて当たり前じゃあないですかー 音域が狭い、ですかーピアノで音を取ると結構出やすいですよーあとは、歌いたい曲を練習してー音域を広げるのもいいと思いますー 続編、待ってまーす (2015年8月20日 15時) (レス) id: 7c8a29757a (このIDを非表示/違反報告)
コトハ@白亜(プロフ) - 杏さん» 返信ありがとうございます、遅くなってすみません!わわ、続編までコメントいただけるんですか…ありがとうございます!嬉しいです!音痴というか出せる音域が狭いんですよね…なので歌が上手い人羨ましいのです… (2015年8月19日 0時) (レス) id: 5c05607229 (このIDを非表示/違反報告)
- はいー、頑張って下さいー続編出来るまで此処を見に来たりしましょうかねー 一番に作品を見に行ってコメントしたいですー…音痴?そんなのカラオケが悪いんですー声の質は様々じゃないですかー (2015年8月17日 11時) (レス) id: 81089b7519 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:コトハ | 作者ホームページ:   
作成日時:2014年6月13日 17時

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