単純な願望 ページ27
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『…前田…皐…』
思わず復唱してしまう。
まさか、ここで彼女の名前が出てくるとは思わなかった。
「…詳しい事情は知らないがね。そういう事だ、部屋に戻ると良い。」
『…わざわざ、ありがとうございます。』
私は大人しく言峰の言葉通りに部屋へ帰った。
ベットに腰を下ろし、考える。
彼女が殺された原因は何なのか。
同時に、昨日のギルガメッシュの反応を思い返す。
あの意味深な視線は、偶然か?
『……。』
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冬木市の空が黒く染まっている。
辺りの空気も、肌を突き破らんばかりに冷え切っている。
『……ここが、前田さんが殺された場所……』
昼間に聞き込みをして、漸く現場を突き止めた。
その場所は、大通りと小道の丁度境目の場所。
決して人通りが少ないわけではないが、そういう場所で殺されていた。
地面には薄っすら血痕が残っている。
前田皐は、心臓をナイフで刺された上に喉元を掻き切られていたそうだ。
『……この感じ……』
そして、そこからは別の気配も感じていた。
明らかな魔力反応だ。
しかも、どこか歪んでいる。
それがどういうものなのか、探ろうと神経を尖らせるが、あまりにも微量で途切れてしまう。
『……』
結局、収穫は無かった。
そもそも、何故ここまで気になったのだろうか。
正直に言って、私は全くもって前田皐に対する感情を抱いていなかった。
怒りや悲しみも、ましてや殺した相手に対する憎悪など、欠片も無かった。
ただ、気になった事は別にあった。
もしここで前田の死の原因を知る事が出来れば、
ギルガメッシュの視たものがわかるかもしれない。
ふと、そう思ってしまったのだ。
滅茶苦茶な理由だ。
しかし、そう思うしかなかったのだ。
だって、本当にそう思っていたのだから。
きっと、今朝見た夢のせいだ。
私は、心の底から願ってしまった。
あの夢の主人公のようになりたい。
あの男の隣で、あの男が本当に幸せそうに生きている姿を見たい。
あの男と同じ世界を知りたい。
嗚呼
何て愚かな願望だろうか。
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この時、私は初めて願望というものを認識した。
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『……帰ろう。』
誰もいない静かな路で、誰かに呟く。
視えない雨が
ただ私の奥で
寂しく降っていた。
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カエデ - もう更新は絶望的かもしれませんが、いつまでもお待ちしております😭 (10月8日 14時) (レス) id: e7e0135c10 (このIDを非表示/違反報告)
指導者は白痴、かかってこいや当局 - まじかよ本当にいいとこで終わってんな、、、 (2021年8月26日 23時) (レス) id: 55ab4f5815 (このIDを非表示/違反報告)
Na Ryu(プロフ) - うそん!!?めっちゃ良いとこで終わってるー!! (2021年1月4日 9時) (レス) id: e0675e6765 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃちゃん(プロフ) - コメント失礼します。ギルガメッシュが好きでこの小説を読み始めました。続きがものすごく気になります!更新頑張ってください!! (2020年6月12日 17時) (レス) id: 5728e25ca4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめの - コメント失礼します^o^凄く面白いです!更新頑張って下さい!応援しています! (2020年4月21日 19時) (レス) id: a922e9fda4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:またたび | 作成日時:2016年6月19日 6時