すのまんまの9人 3 (ページ36)

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鮮明すぎる蒼に舞うページ36

『nbdt』 dt side

その日は、ものすごく寝づらかった。
息が苦しい気がして、まるでずっと海の中に漂ってるような感じ。

明日も仕事だし、無理矢理にでも寝ようとしたら変な夢の中にいた。

海の中にいるのに呼吸は楽で、むしろ陸よりも居心地がいいような気さえした。海は綺麗とも汚いとも分からないくらい暗くてなんの先も見えない。でも怖くはない。

ただ少し寂しいような気がする。

目が覚めた時、夢だとわかっているのに寂しさだけは残っていた。
なぜだか人恋しくなってどうしたものかと考える。

今までにこんなことあっただろうか。

ふと、頭に浮かんだのはツンツンしてる幼なじみであり恋人だった。

最近、恋人は忙しい。
美容クリニックのCM、ドラマ出演、雑誌掲載、スキンケア商品のアンバサダー。
気づけばどこにでもいて、どこでも顔が見れるのに本人には全然会えてない。

(…会えないな、全然)

仕事が終わって家に帰る。
朝送ったメッセージは既読になったまま帰ってこない。
今日は何をしてるとかどんな予定なのかとか、あまり知らないから返ってこないことを問い詰めれない。

それでも。今日は会いたい。

『翔太、忙しくなかったら会いたい。』

打ち込んだ文章を眺める。
こんなこと送って嫌われないかな。
めんどくさいって思うかな。

でも言わないともう一生会えないような気がするくらい、遠い。

疲れて眠気がくる。
また少しだけ息苦しい気がする。睡魔には勝てない。

ざぶんと、堕ちていく。
暗い海の中を漂う。海の中は暗すぎて色がない。
薄ら見える光さえ、白んでいてモノクロの世界。
なぜか息はできるのに自分脈は感じない。

まるで死んでしまった世界の中をただ1人漂うだけ。

深く深く息を吸う。
口からでた泡が細かく上に登っていく。
この泡を掴んでいけばもしかしたら何かに出会えるのかと、手を伸ばして海を登っていく。

一直線に登っていく泡の先にどの光よりも強い光を感じる。
少しだけ温かいような気がしてさらに手を伸ばす。

その光を掴んだ瞬間、強い光が海を満たす。
眩しいくらいの鮮明な蒼。

水に絵の具を溶かしたようなはっきりとした蒼なのに、なぜか温かくて少し重みを感じて。
ものすごく会いたい人を思い出して少しだけ涙が出た。