それは、タカラモノ 〜第四章 最愛〜

side Ki ページ6

事務所から、しばらく仕事を休めと言われた

だけど、動いていないと嫌な事ばかり思い出して、また暗い深い沼の中に沈んでいく

そんな自分が嫌で、昔からお世話になっている、ラジオの仕事だけは細々と続けていた

ダンス練も、歌も、収録も、藤ヶ谷の復帰を待つという形でしばらくがストップしていた

第一、ほかのメンバーの精神状態だって
おそらく万全じゃないから

俺達は、休むことを、余儀なくされていた



それでも、毎日藤ヶ谷の顔を見たくてここへ通った
どんなに時間がなくても顔を出した



今日も、顔を見たらすぐに帰ろうと思っていたんだ


「ふ・・じがや・・？」



何か、なんとも言えない違和感を感じてふりかえると、大きな声で俺を呼ぶ藤ヶ谷と瞳があった

呼吸を乱して苦しそうに喘ぐ藤ヶ谷を抱きしめて呼びかけると、

その黒い瞳が、俺を見上げた



「きたやま・・・ごめ・・」

「大丈夫、今先生呼ぶからっ…」

「違う・・」



伸ばしたナースコールを、制止されて、そのまま藤ヶ谷の腕の中にギュッとおさめられた


「ふ、じがや・・？」

「ごめん・・守ってやれなくて」

「え・・・」




その声に、その震える肩に

頬を伝う涙の色を、目を見開いて見つめると

その表情は、ぐっと何かに耐えるようにして、俺のほうを見つめていた



「ずっと・・一人にしてゴメン・・怖かったよな、苦しかったよな。目の前で、何もできなくて・・ごめん」

「っ・・！・・お前、記憶が・・」

「き、おく・・？」


そうだ、藤ヶ谷は知らない

自分がこの、約一か月近く、これまでの最近のことを忘れていたことを



濡れたような瞳、黒く煌めくその宝石のような瞳を見る
藤ヶ谷の、大きな背中に腕を回してぎゅっとしがみついた

目の前にいる・・涙をたくさん貯めた顔をこちらに向けてくる最愛の人

言いたいかったことも伝えたい思いも、こんなにあったけれど

いまはただ、この言葉だけでいい






「藤ヶ谷・・・」

「ん」



その手を、ぐっと引き寄せて、もう一度俺を抱きしめてくれた温かな手


「おかえり・・藤ヶ谷」



自然と交わる視線

ふと、頬を涙が伝った



「ただいま・・北山」




その言葉のあとは、続かなかった

藤ヶ谷の唇が、そっと俺のに、重なったから

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