それは、タカラモノ 〜第四章 最愛〜

side Ki ページ28

藤ヶ谷に抱かれた
甘くて、熱くて・・幸せで

ずっと藤ヶ谷が好きだった
去年身体を重ねたときから

いや、もっと前・・
デビューしたときから、グループが結成されたときから
気づけば隣に居てくれたその人は、いつの間にか心から愛する人になっていた

幸せ過ぎて、涙が頬を流れた

俺に触れる藤ヶ谷の指先の一つ一つ
俺をみる眼差しもその声も、全部が甘くて優しくて、こんなにも愛されていいのか、怖くなる

だけど、それを払しょくするようにキツク、藤ヶ谷は俺の不安ごと抱きしめてくれる

それに応えるように、藤ヶ谷とつながったままで、その大きな背中を抱きしめた


「っ・・・」


ふいに、指先に感じた違和感で手を止めた


「きたやま・・？」


俺の表情に気づいた藤ヶ谷が、不意に律動を止めた


背中に感じた、一本の線


退院したとはいえ、まだ傷跡の残る背中に、張られた保護用のテープだった


「っ・・ごめん・・」

藤ヶ谷の、陶器のようなきれいな背中が好きだった
ソコに触れることはできなくても、ふと見つめて、あの滑らかな肌に手を伸ばしてみたいと思いながら、背中を合わせていた日々


俺のせいで・・そこには多分、二度と消えない傷が残った

「お前・・せっかくキレイ・・だったのに・・」


背中から、するりと手が滑り落ちた
それと同時に、頬に水滴が伝う

「バカだな・・北山のせいじゃない。こんなの・・すぐ目立たなくなるよ」

「でも・・みせる仕事だって・・あるのに」

「編集でどうにでもなるよ、こんなの・・・大した傷じゃない」



藤ヶ谷は、俺を宥めるように笑って見せる

大した傷じゃない人は、長期間入院しない
あんなに・・たくさん血を流して、救急車で運ばれたりしない


「ごめ・・ごめんっ・・」


溢れた涙が止まらなくなって、俺はただ泣きじゃくった


「泣かないで・・北山・・」


優しく涙をぬぐってくれる親指
温かくて・・苦しい

「ふ・・じがや・・」

「ん？」

「俺の背中に・・爪、たてろよ・・」

「え・・」



そんなことをしたって、藤ヶ谷の傷が元通りになくなるわけではない

それはわかっている

だけどせめて、藤ヶ谷と同じように自分も傷ついてしまいたかった
ただの、自己満足な独りよがりでも


「そんなことっ」

「いいから・・俺の気が・・済まない・・」

「っ・・・」


藤ヶ谷が、切なそうに俺の背中に手を回した

そう・・それでいい

こんなこと、意味がないってわかっているけど

ぎゅっと、目をつぶった

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