意地っ張りな君へ

side Ki ページ30

「すいません、バッテリー持ってないですか？」



ドラマの撮影が終わって、もう時計の短針は2をさしていた
気づくと、スマホの画面が真っ黒になっていて、電池が切れていたことに気づく


藤ヶ谷の部屋から荷物を引き上げて、この数日間、常にスマホが手放せなかった
鳴らないケータイに縛られている自分が滑稽で、もう画面を見ることもやめた

そうすると、充電するのもめんどくさくなって、ここ数日放っておいたらこのありさまだ




電話なんか意味がない

抱き合なければ、アイツを感じられない



今日は、アイツが帰ってくる日だ






「え、電池切れですか？僕のとキャリア同じなら使えるかもしれませんけど・・・」


「あ、すいません・・あ、ダメっぽい・・」


スタッフが手渡してくれたバッテリーのジャックを差し込もうとするも、ハマらずに、仕方なく諦めた
どうせ、こんな時間に連絡をくれる人はいない

仕事の連絡だって、こんな深夜には来ないだろうし・・

深夜でも、会いたい、と連絡をくれた恋人は、俺の側にはいないのだから
もしかしたら・・その思いでスマホを見つめた日々


「大丈夫です、すみませんでした」


スタッフにバッテリーを返し、移動車に乗り込むと、シートに深く沈む

幸い、仕事が忙しいこともあって、アイツのことばかりを考えずに済む
ドラマの撮影に没頭していると、役に入り込めるから、幸い暗くならずに済んだ


恋愛ものとかじゃなくて、マジでよかったよ

そんなことやってたら、ますます藤ヶ谷への未練が立ちきれなくなるから
一人の時間は嫌いだけど、アイツを思い出す時間はもっと辛い


だけど、ふとした時、声を聴いて、顔を見たくなるのは、たったひとりだけ
自分で、決めたくせに女々しいな

ふと、自嘲気味に笑った


「北山さん、明日は10：00にお迎えに上がりますねー」


マネの明るい声に、閉じていた瞼を開ける

そうか、明日は久々に７人そろうんだ




藤ヶ谷と別れてから、初めて顔を合わせる


心の奥が、ズキッと痛む音が聞こえた気がした

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