意地っ張りな君へ

side F ページ21

こういう時、自分の不器用さが心底嫌になる

北山だったら、どんなに忙しくても、仕事も恋人も友人も、全部大切に、器用にこなせるような気がして、それと比べて、自分のことでいっぱいになってしまう自分のキャパの狭さに落ち込むんだ

今回だって・・北山と会う時間を俺がもっと作ることができたら、こんなすれ違い、おきなかったはずなのに


「ごめんな・・」


伝え損ねた気持ちを、北山の抜け殻にぶつける
せめて、北山の代わりに、抱きしめたい


綺麗になったジャケットを、ふんわりと抱きしめた
その持ち主がいない今は、ただ、先ほど俺が降りかけたフレグランスの匂いが香るだけ

電話のひとつでもして、ごめんなって伝えればいいのかもしれない

だけど、どんなにそういったところで、これからまた二週間、会えない日々が続くことは明白だ
それなら、ちゃんと北山の顔を見て、思いきり抱き締めて、大好きだよって伝えてあげたい


俺は仕方なく、テーブルの引き出しから紙とペンを取り出した


『昨日はごめん。コレないと、困るだろうから、とりあえず預けます。仕事が落ち着いたら、真っ先に会いたい』


我ながら、相変わらず下手くそな文章だとは思う
だけど、せめてもの思いが北山に届きますように


アイツがいないと、ダメなのは俺のほうだ





そう思いながら、その紙きれをジャケットの内ポケットに入れて、ジャケットを折りたたんで紙袋にしまった
ついでに、北山が今まで溜め込んでいた洋服類も一緒に入れる

もうすぐ、マネージャーが迎えに来る
本当は直接渡したいけど・・仕方ないからマネに預けて代わりに渡してもらおう

そう思いながらも、テーブルの上にあるスマホが視界に入り
やっぱり、今、北山に電話のひとつでも入れておこうかなと思った矢先、スマホが震えた


『もう着きます！』


マネからの連絡に、俺は仕方なくスマホをポケットにしまい、部屋を後にしたのが、
かれこれ１０時間ほど前・・





このあと俺を下ろした足で北山を迎えに行くと言っていたから、なるべく早く渡してほしいと伝えた

北山、ジャケット受け取ったら、連絡くれるかもって思ってたけど・・

そう思いながら、何の通知も示さないスマホを握りしめて、俺は目を閉じた
北山に会いたいと思いながら、車の揺れに身を任せていると、疲れがいっそう色濃く感じられて、意識が霞んでいくのがわかった

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