意地っ張りな君へ

side Ki ページ19

昨日の、冷たい藤ヶ谷の視線を思い出すと、胸が張り裂けそうに痛む



「ふっ・・なんだよ、それ」



昨日のことは、ただのちっぽけなケンカで、お互い意地を張っただけ
だから頭を冷やして、あと数日したら、ちゃんと謝って・・そうしたらまた、一緒に過ごせるかなって

藤ヶ谷の仕事の忙しさがひと段落したら、いっぱい笑いあって、抱き合って・・そういう日々が戻ってくるものと信じていた



「もう・・おしまいってことかよ」



こんな、あっけない別れがあるのだろうか

別れるとも、別れたいともいわれていないけれど・・でもその言葉を言われるより、
無言で帰ってきた荷物たちのうほうが、より一層残酷に別れを突き付けているようで、目頭に水滴がたまる



そもそも・・藤ヶ谷は、本当に俺の事なんて、好きじゃなかったのかもしれない

付き合うことになったとき、藤ヶ谷が先に好きだと言ってくれたから、気持ちを確かめ合ったけれど
付き合おうって言ったのは俺のほうだった

藤ヶ谷は、単に好きだと思っただけで、こういう関係は望んでなかったのかな？

俺・・めんどくさい奴って思われてんのかな


藤ヶ谷が、はにかんだ様に、笑って頷いてくれたから、同じ気持ちだって・・過信してたのかもしれない




それでも、藤ヶ谷の家で一緒に過ごして、笑いあって・・

俺・・いつの間にか、アイツの負担になってたのかな・・



俺もお前も、仕事を優先してきたのはわかっている
だけど、その隙間の時間を縫うように同じ時を過ごしてきたはずだった
それが、お互いの糧になって、また前を向けて、辛いことも乗り越えていける気がしていたのは・・

俺だけだったのかな





楽屋の中で、これから仕事だというのに、ぐちゃぐちゃの感情が心を支配して、思わず一筋の涙があふれた

ダメだ・・

こんな風な泣き顔で、仕事に臨むわけにはいかないのに・・
アイツに呆れられるかな

あ、でも・・


もう、心配してくれるアイツは・・いないのかもしれない




そう思いながら、声を殺して、そのジャケットに顔をうずめると、再び藤ヶ谷の匂いに包まれて、いっそう俺の心が揺れた

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