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「雨降ってる……傘持ってきてよかった」


 天気予報を見て傘を準備していたおかげで、小雨にも濡れることなく曇天の下を踏み出した。鈍い音で広がる傘を手に、玄関を出たAは思い返す。頼子の話だけではない、彼女に淀を落とすのは母親に限らなかった。



 ──あっちにいた時の、前の浅野ちゃんに戻った、って感じだよね

 昼休み、その言葉を聞いてしまったAは教室の入り口で足を止めた。耳がいいと自負している彼女にとって、開けっ放しの扉すらない境界線の向こうの会話を聞くなど容易い。
 話をしていたカルマ達に気付かれないよう何でもない顔で、知らないふりをしたAは中村達の方を向いていたカルマの背後に近付き声をかけた。

 言及はできなかった。思い当たる節があったのもそうだが、言ってはいけないと脳が警鐘を鳴らしていた。


 ぬかるみ始めた山道をのろのろと進みながら、Aは木葉に陰った勾配を下る。葉にもたついた雨粒が傘を弾くのに時折手を揺らしているうち、緩い地面が舗装された道に変わった。悶々としている間に本校舎側の門の方まで歩いてきたようで、ちらほら生徒が玄関口から帰宅しているところだ。



「A」

 もし、聞こえていたと本当のことを話していたら。彼女の耳の良さを知るクラスメイトは驚くか興味を示すだけで終わるかもしれない。
 でも、聞いてはいけないことを聞かれてしまったと思われたのなら。


「おいっ」


 三人はあの時、僅かながら声量を控えていた。それでも周りにいれば聞こえる程度のものだ。では誰の耳に入らないように注意を払っていたのか。それを聞いてしまったのは誰なのか。そんなことで気を遣わせてしまうのなら、いつものようにいっそ何も────

 無意識に、傘の柄を強く握り締めた。水溜まりが生まれたばかりのコンクリートを蹴る足が逸る。勢いの増した雨粒が、傘を叩いて耳を責め立てた。




「聞こえてるんだろ、A!!」

 雨音と雑踏に交じって、その声はようやっと彼女に届いた。水を蹴った足が立ち止まり、浅い水面に沈んだ靴底が湿ったまま背後に踵を返す。黒い傘に、よく似た瞳の色が陰をさされて佇んでいる。声色と裏腹にどこか自分の身を案じる表情すら見たいものではなかった。


 いっそ何も、聞かなかったふりをすれば全て丸く収まるのに


「それもさせてくれないの」

 半ば八つ当たりに吐き出した言葉の意味は、伝わらないのだろう。伝わらないでほしかった。


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(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2022年3月22日 20時

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