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貴方は皆と違って特別なのよ、A
何だって一番になれるAには相応しい場所があるの
Aはいい子なんだから、お母さんの言っていること、聞いてくれるよね
「浅野さん」
赤い筆跡が語尾を踊らせるノートにまあるい影ができて、Aははっと顔を上げる。右手に握られたままのボールペン、普段より高い教員室の机、カーテンのない裸の窓から覗く赤い陽光に、遅れて彼女の頭は殺せんせーに頼んで居残っている最中だったことを思い出した。
僅かな時間ながら気が逸れていた生徒に気付いていたのか、声をかけた先生は触手に持っていた数冊の参考書をぱさんと彼女のノートの隣に落ち着かせる。
「今日はあまり集中できていないようですね。ケアレスミスも目立ちますし」
「すみません、私から頼んで時間をわざわざ割いてもらったのに……」
集中が切れたことを自覚したAが、短く溜息を吐いてボールペンを机上に転がした。僅かに眼鏡をずらしフレームに挟まれていた鼻の根元を軽く揉むと、フレームの中と外に分断された殺せんせーがあわあわと触手をばたつかせる。
「とんでもない! 浅野さんは普段ミスが少ないので気になってしまったのですが……何か心配事でも?」
「心配事……ですか」
「はい。勉強のことだけでなく人間関係でも将来のことでも何でも構いません、先生に話してはくれませんか?」
家族や友人……恋愛のことだって何でもござれですよ、と続ける触手は、後者の話を期待しているのか先程まではなかったメモ帳の新しいページを開いているところだ。出歯亀甚だしい様子に、Aは目を伏せて一文字にしていた唇を綻ばせる。
「何もないですよ」
「……本当ですか?」
「はい」
はっきりと頷く赤い目は、確信を抱えていた。恵まれた環境下で育った自分が、どうして悩みなど燻らせていようか。そんなことが
笑顔を絶やさない生徒に表情を変えない殺せんせーは何も返さないままだ。
「そこまで気を遣っていただいてありがとうございます」
殺せんせーはいい先生ですね。教員室の外から入り込むクラスメイトの声を背景に、Aが続けた。
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窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:窓 | 作成日時:2022年3月22日 20時