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カルマも片岡も、何も返せなかった。中村の言葉が二人の中でも腑に落ちたからだ。おおよそ彼女の変化の原因に予想がついていたカルマですら、Aの空気に僅かに戸惑う程だった。
例えば、休み時間の何気ない会話で見せる柔和な笑顔や、(主に)カルマにからかわれて変化する年相応の表情だとか、注意深く観なければ気付かない些細な差異だ。その何が、と聞かれれば具体的にクラスメイトの普段と違う点が明確になっているわけではない。ただ、纏う空気や、言葉で言い表せないふとした時の表情は確かに普段と違う──否、中村の言った通り戻ったのだ。
「……で? 何か心当たりとかないの、カルマ?」
腕を組んで小首を傾げる中村の視線は胡乱げだ。ここに来て、Aの様子がおかしい原因が自分にあると疑われていると気付いたカルマは、顎に指を添えて考える素振りを見せた。彼女の変化に薄々気付いてはいたし、それがいつからかも見当がついている。十中八九、原因は三者面談なのだろう。
が、口に出すのがどうにも躊躇われた。物思いに更ける中逡巡したカルマが思い返していたのは面談より更に前、学秀を含めた三人で交わした会話だ。一語一句とまで覚えてはいかないが、どこか棘の見え隠れした言いようは見据えた彼女のその先──頼子に対してあまり良い感情を抱いていないように見えた。確か、あの時彼は何を言っていたか。
「あ、カルマ君だ」
カルマが口を閉ざしたほんの数秒後、件のクラスメイトが教室に入ってきたことで思考が中断された。ちょうど話が折れていたからか、まさか自分が三人の話題の渦中だと知らないAは遅れてきた隣の席の主に苦笑いを溢しながら席に着く。
「……おはよー浅野さん」
「おはよう……ってもう昼だけどね」
しょうがないなあと眉尻を下げて笑うAは、端から見れば優しい、もしくは甘い対応だ。却って、その当たり障りのない態度が異様なのだ。
E組に来てから、彼女が徐々に変化しつつあったのはほとんどの生徒が気がついている。隣でよくちょっかいを出すカルマはその筆頭だ。彼がここに来てから知ったAなら、僅かに口を尖らせて苦言を呈するような年相応の姿を見せた筈だが、その面影がない。隠している、ではなく完全にないのだ。
目を伏せて穏やかに笑うクラスメイトの橙色が、吹き込んだ風に揺れる。その表情が読めないのは、髪に僅かに遮られたせい、だけではなかった。
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窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:窓 | 作成日時:2022年3月22日 20時