赤羽君は浅野さんが気になる#5

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　拍子抜けする程あっさり終えた三者面談から数日が経ち、カルマが殺せんせーの小言を片耳に登校した昼休みのことだ。
　以前から出回っていた印象や共にE組で過ごし慣れた(麻痺したともいえる)クラスメイトが、ちらほらと教室に足を踏み入れたカルマに挨拶をする。欠伸半分に返事をしながら席に着いたところで、隣の空席が目に入った。普段であれば、彼が遅刻する度に殺せんせーの次に小言を溢す同級生が気難しい顔をしているところだがちょうど席を外している。戻ってくればしょうがないというような声色で口を尖らせるのだろうとは容易に想像がついた。

「ちょっとちょっと、カルマさんや」

　勉強道具などほとんど入っていない空っぽ同然の鞄をおざなりに机の上に置いたところで、人目を憚るような声が眼前から迫る。呼ばれたカルマは前列から遠出してきたらしいクラスメイト──中村が教室の出入り口をちらちらと気にしながら彼の隣に歩み寄った。

「何？」

　席に着こうと椅子の背もたれにかかっていた手を止めれば、控えめになった声量が鼓膜を打つ。

「浅野ちゃんのことなんだけどさあ、……何かあった？」

　続いた彼女の言葉に、自然と窄まった声が誰を気にしているか察した黄金色の瞳が軽く瞬いて考える素振りを見せてからああー、とだけ声を返した。曖昧な返事のカルマの言葉を待たず、戻らないクラスメイトに注意を払いながら中村が更に続ける。

「よそよそしいっていうか、反応がぎこちない……て言えばいいのかなあ」

「浅野さんのこと？」

　カルマなら何か訳でも知ってんじゃないかと思って、と付け加えるクラスメイトの声がちょうど耳に入ったのか、ちょうど傍を通りがかった片岡が彼女の背後から会話に加わった。出歯亀根性のなさそうな彼女がわざわざ首を突っ込む程度には、Aの異変が気がかりだったのだろうと窺える。



「昨日から気になってたんだよね。浅野さんって、手が空いてたらよくクラス委員の仕事手伝ってくれて、それはいつも通りだったんだけど……

今朝一緒に授業の準備しながら話してる時も、ずっとにこにこしてるのに知らない人と話してるみたいで」


「…………知らない人、っていうかさあ」

　片岡の言葉に小さく頷きながら、補足するように中村が口を開いた。



「本校舎(あっち)にいた時の、前の浅野ちゃんに戻った、って感じだよね」



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