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小賢しい手ではあったが、眠る直前Aが確かに自分の言葉への返事として頷いたのをカルマは見届けた。昨夜から渋い表情を残していた寝顔は、微かに和らいで天井を仰いでいる。
この一か月と少しの間、Aに対して彼はさんざ線引きをして二の足を踏んでいた。そのまま、彼女が動くまで手を出すつもりはなかったが、そもそもAが境界の飛び越え方を知らないのだと気付いたのは昨日のことだ。カルマの手からあっさりと抜けた手すら、差し出された手を放さない為の掴み方もわからず頼らない、頼れないように見える。
荒療治だとは承知の上だ。そうでもしなければ何かを抱えっぱなしになると予想のつくクラスメイトの未来が、カルマの衝動的な行動の引き金になった。深い理由はない。気に入っているクラスメイトが潰れてしまうのがもったいなく、気に喰わなかっただけだ。
体調の優れない状態でのカルマの問いも、弱っている隙を狙ったものだった。それを、優しいなどと言われる筋合いはなかった。自己本位的なカルマの物言いですらそう形容されることが、彼をざわつかせた。
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朝方に目を覚ましたカルマが欠伸交じりに見たのは、テーブルの放置された彼の端末だった。いつの間にかリビングで寝こけてしまっていたらしい、端末を手繰り寄せて時間を確認してから、突っ伏していた体を起こして首を鳴らす。小気味よい音と共に数回首を回したところで、背後の気配に徐に振り向いた。
「っ」
「お、……はよ、浅野さん。いつから起きてたの」
「さっき、かな」
昨晩と体勢こそ変わらないものの、寝そべったまま目を開けたクラスメイトに一瞬驚きで声を詰まらせたカルマだったが、すぐに平静を取り戻す。万全の状態には程遠く、すっかり掠れた挨拶が彼女の意識が完全に覚醒しているのだと言外に伝えた。
「体調どう? まああんまりよくはないだろうけど……」
「昨日よりはマシ、だよ」
自分を気遣う言葉にしわがれた返事をしながら、Aはやっと一昨日からの朧げな記憶を辿り始めた。所々曖昧な部分はあるが、フル回転をしようとする脳は大雨の中家を飛び出したところから昨晩までの経緯を記録している。
夜中に交わしたカルマとの会話も、だ。
「あのさ、起きてすぐになんだけど──」
「そ、その前にカルマ君」
内容に察しがついた上で、話を切り出しかけた彼にAは待ったをかけた。
「洗面台、借りてもいいかな」
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窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:窓 | 作成日時:2022年3月22日 20時