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ソファの上で舟を漕ぐAが、口をもごつかせて曖昧な相槌を打った。話半分にしか聞いていない様子でなに? と返す言葉も上手く呂律が回っていない。髪の毛を巻き込んだ握り拳に、カルマの手が触れる。幾分か自分より低い体温にAの意識が引っ張られた。恐々とした触り方すら穏やかで、眠気を催すしっぱなしの彼女に彼の声が踏み込んだ。
「教えてよ。あんたがどんな環境で生きてきたのか、何を思って生きてきたのか」
投げられたままだった手が、彼女より大きなそれに包まれる。自分をまっすぐに見据える黄金色に、Aはひどく戸惑った。薄く開いた目とぶつかった視線に、瞼が再び半分伏せられる。
「…………カルマ君は、何でそんなに優しくしてくれるの?」
「は?」
ほとんど閉じられた視界の中で、Aはクラスメイトを目に捉えることすらせず尋ねた。素っ頓狂な声色が、二人の会話と外の僅かな雑音を跳ね返していく。予想だにしていなかった彼女の問いに、カルマは逡巡の末正直な答えを返した。
「俺は別に優しくなんかないよ。ただ浅野さんに興味があって、知りたいってだけ。そこに浅野さんの意志は関係ないから」
「……とくべつ、優しくないの?」
繰り返すAに、カルマもそこで違和感を覚え改めて暗がりの中で彼女の顔を見た。リビングに続くキッチンの室内灯が、こんな時にも整っているクラスメイトの顔を輪郭から照らしている。
乾いた唇も、赤みの残る頬も、寂寥と悲哀を湛えて揺れる瞳も、切なげに顰められる眉も、漸くカルマは認識した。
雨音が、静まる。静寂に包まれかけていた部屋が余計に音をなくした。
「……浅野さん、」
またうつらうつらと規則的な呼吸を連ね始めるAにかける言葉の見つからないまま上げたカルマの声が、ぽつんと静寂を落ちていく。
「私を教えてって、いってくれるような人、今までいなかった」
「そういってくれるかるまくんがとくべつ優しくないなら、それが普通なら」
「世界は、おもってたより私に随分とつめたいんだね」
末尾のあやうい言葉が事切れるのを聞き届けると同時、カルマの手の下に投げ出されていた白い手が力をなくしくったりとソファを伝ってずり落ちた。呂律の覚束ない声音は、取り繕う術を失った、おざなりに仕舞い込んだ彼女の本心の一片なのだと、僅かな会話の中で彼は
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窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:窓 | 作成日時:2022年3月22日 20時