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イリーナは、それなりにAを気に入っている節がある。その理由の一端が、彼女が臨時講師として椚ヶ丘にきた初日に切られた啖呵だ。初めこそ気に食わないと思っていたイリーナだったが、E組に馴染みつつある今空気を震わせた言葉から彼女なりに少女の意志の強さを見出していたのだ。
そのAが精神を相当摩耗させている様子に、イリーナは疑問を禁じ得なかった。今だけではない、車に押し込まれたAは心ここにあらずのままで、家の中について入った時も目が離せないような危うい足取りだったのだ。勿論、その間のクラスメイトの様子をカルマは知る筈もないが、イリーナの口調から何か感じ取ったのか数回の咀嚼の後パンを食道に流し込んで口を開いた。
「確かに
先程の電話を思い出しながら、カルマが背後に目をやった。うっすら汗ばんで髪を湿らせるAに、だからとりあえず早く元気になってくんないと困るんだけどね、と心の内で続けた。外の小雨も、苦悶の表情もまだ晴れそうにない。
────────
眠ったAの頭を一撫でして、お役御免とイリーナは早々に部屋を後にした。「Aに変なことするんじゃないわよ」と言いつつヒールを履いた彼女も彼女なりに澱んだ空気を和らげようとしていたのだろう。刺された釘を軽く受け流して、カルマはプラチナブロンドの揺蕩う背中を見送った。用が済んだからと彼女が経たずして帰るのはわかる。
「ではカルマ君、先生もそろそろお暇しますね」
イリーナに続くように、殺せんせーが腰を上げたのはカルマにとって少々予想外だった。名残惜しさはないが、思わず引き留める声が上がる。
「え、帰るの? 殺せんせーのことだから浅野さんが元気になるまで居座るとか言い出すと思った」
「本当は、生徒二人というのは気がかりなのですが……
──────恐らく、浅野さんは先生がいない方が休めるでしょう」
「あんま関係ないんじゃない? 先生がいてもいなくても浅野さんどっちでも気にしないっぽいけど」
「それはそれで悲しいですが……」
おざなりなカルマの返事に苦笑の滲み出た殺せんせーが、細めた目を丸く戻したかと思うと、Aの額を伝う前髪を梳かした。鬱陶しかったのか、睫毛が僅かに震えてすぐ、穏やかな寝息に戻る。
「先生だけではありません、彼女はどんな教師だろうと頼ろうとしないでしょうから」
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窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:窓 | 作成日時:2022年3月22日 20時