赤羽君は浅野さんが気になる#5

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「Aいるわよね？」

「……いるけどさあ、」

　怒涛の金曜日を終えた翌日、カルマを起こしたのはけたたましくインターホンを鳴らすイリーナの来訪だった。日は十分に昇っているとはいえ、普段の彼ならベッドから降りていないこともある時間帯だ。冷えたフローリングをぺたぺたと鳴らしたカルマは寝癖の残る頭を掻きながら渋々来客を出迎える。

「誰の差し金？」

「失礼ね。あのタコに頼まれて朝からきてあげたのよ」

　寝起きの仏頂面が移ったのか、つられて唇を結んだイリーナが肩を竦める。教室でも露出の多いスーツを纏う彼女だが、休日も違わずややカジュアルなカットソーにタイトな短いスカートといった出で立ちだ。思わず聞いてみたものの、カルマの方も彼女が来た経緯は予想がついていた。が、その理由までは理解が追いつかないまま、昨晩の雨の名残を湿らせる外界から室内へとイリーナを迎え入れた。



　先生は雑魚寝でもタコ寝でも構いませんので、と冗談めかして宣った殺せんせーは、夜も更けた頃にソファで眠るAの傍らを離れようとしなかった(夜中に何度か試しに暗殺を試みたが軽くいなされたのは彼女には秘密にしたいところである)。促されるまま自室で床に就いたカルマが先生を見たのは日付を跨いですぐだった。来客のチャイムに玄関まで一直線に向かったこともあり、カルマが忽然と消えた頃せんせーに気付いたのはイリーナを連れてリビングに足を踏み入れてからだった。

　どこから調達したのか、昨日包まっていた毛布に加え上乗せされている掛け布団から覗く顔は火照ったまま瞼を下ろしている。頬や額はうっすら汗ばんでいるが、毛布の隙間からはタオルの巻かれた首筋が見えた。そういえば寝息の落ち着いたクラスメイトに安堵しどっと増した疲労に睡魔が訪れ始めた頃に、タオルを借りると殺せんせーがいっていた気がする、とカルマは今になって昨夜の記憶を思い起こしていた。

　熱の完全に引いていないらしいAに近寄るイリーナを横目に、カルマはリビングのローテーブルに書き残されたメモに気付いた。

「二分で戻りま「ただいま戻りましたっ!! 空き巣には入られていませんか!!?」うわっ」

　読み終える前にベランダに突然姿を現したアカデミックドレスに、カルマは動揺でメモを取り落した。役割を終えられなかった書き置きがフローリングに滑り落ちていく。


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