17 ページ39
.
Aと距離を置いて深く溜息を吐いたカルマが、きょとんと目を丸めて殺せんせーを見上げる。ひとまず落ち着いた空気にゆっくりと腰を上げながら怪訝な表情を拭いきれない彼が首を傾げた。
「何で、俺?」
「渦中の浅野さんが心配なのはわかりますが、カルマ君も彼女の家の事情にある意味巻き込まれた側です
如何なる時も生徒のケアを怠らないのが教師の務めです」
おざなりに首にかけられていたタオルをとった触手が、湿り気の残る髪に乗せて丁寧に拭い取る。一瞬で終わりそうなものだが、あえて時間をかけているのは話の合間が手持無沙汰だからだろうか。
「別に俺、そんな風には思ってないよ。確かに浅野さんの家族はめんどくさいところあるけど」
「……そうですか」
今日になって判明したAの血の繋がった家族(殊彼女の兄か弟にあたるであろう人物)を思い浮かべたカルマがそう返すが、殺せんせーの返事は芳しくない。
事実、カルマは巻き込まれたなどとは微塵も感じていなかった。雨の中彼女に手を差し伸べたのは自分だし、損得勘定の比重が感情に傾いている自覚がある彼は、他人の事情に好き好んで首を突っ込まないだろうと己を分析している。
「では、今日は先生もここに泊まっても大丈夫ですか?」
「は!? いや、いいけど……それはちょっと過保護すぎない?」
唐突な提案に、されるがままだったカルマが振り返った拍子に触手を振り払った。僅かに水を吸ったタオルが重力に逆らわず音もなしにフローリングに着地する。不都合はないが、予想外のことに目を剝く彼に殺せんせーが言葉を返した。
「何せ理事長先生から直々に頼まれましたので……勿論、頼まれなくても生徒しかいない上に、目を離せない状態の教え子を置いて帰る先生ではありませんよ」
「ふうん…………理事長が頼んだってのはさあ、」
生徒、とぼかして言ってはいるが、自分も含んでいるだろうというのはカルマにもすぐに察しがついた。それよりも彼が引っかかったのは違う部分だ。
「……理事長は
その先を連ねる前に、カルマの唇が噤まれる。生徒を案ずる一教師としてか、それとも子を案ずる親としてか、それを聞いたところで現状が変わるとは到底思えなかった。
.
603人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:窓 | 作成日時:2022年3月22日 20時