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「会わな、い?」
経緯を粗方聞いたAの声が、上擦って床を這う。ぺたんと座り込んだ彼女の口の端が引き攣った。
「会っちゃ、だめ? 何で? 家族なのに?
学秀君も? おじさまも? お母さんも? お父さんも?」
何で何で、と子供のように繰り返すAの視線が覚束ない。
「何で?」
「浅野さん、聞いて」
膝が砕けたクラスメイトに視線を合わせて腰をおろしたカルマが、宥めようと目線を合わせた。ちょうどそのタイミングで自分の端末への着信に気付いた殺せんせーが、二人を気にかけながら距離を置く。
「何で」
「多分、あんた自分が思ってるより参ってるよ」
「何で」
「風邪も引いてるし、まず治してから……」
「なんで、」
「浅野さん…………っ」
相槌を繰り返すAに、カルマが痺れを切らした。苛立ちはない、恐らく彼の言葉も禄に咀嚼できてない彼女が見ていられなかったのだ。
緊張を纏うカルマの手がAの肩に触れる。刺激にならないようごく小さく肩が揺り動かされた拍子に、僅かに上向いた赤紫がこの部屋で初めて彼と目が合い、────
「────何で……っ!!」
見開かれた瞳からぶわぶわと涙の膜が膨らんだ。絞られた声が擦れて吐息を連れて吐き出される。
「何で会っちゃいけないの!? 私の家族なのに!! 私の!
何で駄目なの、何が駄目なの!!」
毛布に包まれていた手が、布を潰して白んでいく。どこにぶつけたらいいかわからない情動が叫んでも余り、その残りが息を切らした彼女の涙腺に流れ込む。
突き飛ばしかねない圧に、Aの肩にかかっていた手が怯んで低い体温から離れた。
「……んで、
わた、し、お父さんにあいたいだけ、なのに」
膝の上に鎮座していた両手が、顔を覆った。食い縛った歯の隙間から、言葉が堪えきれずにぼろぼろと噴き出していく。
「おと、さん、何で、ぅ、お父さっ、ん、おとうさん」
静かに父親を呼ぶAに、カルマはいよいよ彼女から手を完全に引いた。彼女の父親に何があったのかは知る由もない。しゃくりあげる少女に、カルマが動く気配はなかった。半端な慰みや根拠のない言葉は余計に動揺を呼ぶと、確信があったからだ。
ひ、ひ、と不規則な呼吸を紡ぐAの頭に、ぽんと慎重に手が伸ばされる。湿り気の残る髪が重く、彼女の大きな枷になっているようにすら思えた。
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窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:窓 | 作成日時:2022年3月22日 20時