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「……浅野さんの風邪が治るまでは聞かないでいてあげる」
「そう、か……」
壊すには、壊れるには惜しいクラスメイトを思い、カルマは渋々といった風に応じた。安堵交じりの相槌が返ってくる。
「で? 浅野さんはどうすればいいの。誰か迎えに来るつもり?」
彼女が少しでも嫌がる様子を見せるのなら誰も部屋に入れるつもりはないけど、と内心カルマは毒づく。大方Aの母親が来るのだろうと見ていたが、間を置いて紡がれた内容は彼にとって少々予想外のものだった。
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覚醒した意識に追いつけず閉ざされた瞼の裏に、射し込んだ光が頭痛を呼んだ。脈打つ痛みに起こされた、の方が正しいのかもしれない。
「はきそ……」
目を開くのすら億劫で、体調の悪さにやっと吐き出された声がひどく乾いているのにAはひどく驚いた。辛うじて目が覚めた今、ここがどこで何があったのか把握もできない、記憶を辿るのも頭痛が邪魔をする。背中と服に挟まれた汗がじんわりと不快感を与えて漸く何かに包まれていることに気付いた。
熱っぽさと寒気に、息苦しさを感じながらも手触りのいい布に更に埋まるように仰向けだった体が縮こまる。重い額から何かが滑り落ちるのを感じながら、膝を抱えて丸くなったAは、僅かに暗くなった閉ざされた視界の中で徐々に先程までのことを思い出していった。
カルマ君の家に来て、それで、今みたいに寒くて、でも熱くて、あれ、その前、は、
動きの鈍い頭を過剰労働させたツケはすぐに訪れ、くらくらと目眩すら起こり始めた。こんな時でも、否、こんな時だからこそ感覚が鋭敏になっているのか、毛布に遮られた耳が外界の雨の音と更に傍、扉一つ挟んだ先の話し声が衣擦れに交じって滑り込んでくる。
遮蔽物もあり内容までは聞き取れない声は、意識を向ければ向ける程微睡みを誘う。元より熱に浮かされて覚束ない脳は、休息まで留まりそうにない。
汗ばむのも厭わず強く毛布を握り込んだAだったが、不意にドアノブが捻られる音に顔を僅かに音の方、リビングから玄関を繋ぐ廊下への扉が開かれた。布溜まりから覗いた頭のてっぺんにかかる声に、ずきずきと頭が痛みを主張する。
「具合はどうですか、浅野さん?」
「……ろ、せんせ」
徐々に近付く殺せんせーの声に、Aの指が毛布の端を掴んでのろのろと顔を出す。薄く開かれた眩い視界の中で、特徴的なシルエットの頭部が彼女を覗き込んだ。
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窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:窓 | 作成日時:2022年3月22日 20時