赤羽君は浅野さんが気になる#5

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　浅野学秀は、カルマに対して強い嫌悪を抱いている節がある。学年首位の成績をキープし、生徒会長を務める極めて模範的な人間が、素行不良の権化ともいえる彼に良い印象を持っている筈もないのだが、殊最近は出会す度に刺々しさが増していた。


「で、A組の生徒会長サマがE組の生徒に何の用があってわざわざ電話なんておかけになってるの？」

　そういう人種もいるのだろう、くらいに構えていたカルマは不機嫌そうな声色に面倒くささを覚えながら普段とさして変わらぬ軽口を叩いた。挑発を乗せた敬語に、学秀もやはり鋭い声で応える。



「赤羽には関係のない話だ……それより、Aが出られないというのはどういうことだ。何をした」

「人聞きの悪いこと言わないでよ。こっちは家に帰らないって意地張ってる病人看病してあげてるんだけど」

　実際手間をかけているのは殺せんせーなのだが、その部分については伏せた。ちょうどこちらの様子を窺いにきた国家機密に空いた手の人差し指を口元に当てて音を立てないようジェスチャーで伝えたところで、スピーカーから漏れた深い溜息におや、とカルマは訝しんだ。


　学秀の機微がわかりやすいといっても、ここまであからさまに苛立ち、焦燥をぶつけるようなことを彼はしない。父親によく似た底の見えない笑顔で表面上は取り繕うのだ。多少崩れることがあっても、感情をここまで剥き出しにすることはない。殊犬猿の仲にも近いカルマに、だ。敵視する相手に弱みを握られるようなことを軽々しくするとは思えなかった。



　息を吐いてから黙ったままの学秀に、彼は鎌を掛けた。

「……とりあえず、今浅野さん起きそうにないしし今日はやめとけば？

あんたと、浅野さんに関わる、大事な話なんだろ」

　わざとらしく区切られた文節に、電波越しに息を詰める音がする。

　雨の中のAの話した内容を知っている前提で、カルマは煽るように告げる。彼女の話について半信半疑だったこともある、帰りたくないと宣った家に彼がいたのかはわからないが、宙吊りの事実に確信を持たせたかった。

　激昂するか、普段の彼に戻るかどちらかの反応を予想していたカルマだったが、僅かな間を置いて届いた学秀の言葉に、少なからず衝撃を覚えた。


「…………そう、だな……正直、僕もまだ半信半疑で頭が追いついていない……」


　彼のものとは思えない、随分と普段の姿からは想像すら難しいしおらしさは、ごく小さな雷にも似た衝撃を植え付けた。


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