7 ページ29
.
────雨が嫌いになったのはいつからだっただろうか。
頭痛が起こるようになったからかといえば、それは違うといえた。それ自体が原因ではないと確信できていた。
土砂降りの中、遠巻きに燃えたちのぼるそれを見ている自分がいた。重力に雨に逆らうそれは、彼女の髪とよく似た色をしていた。
隣で誰かが手を握っていた。ぬるい体温は妙に現実味を帯びている。赤紫の瞳を、情景の橙色がぱちぱちと火花を立てて灼き焦がす。
喧噪が、悲鳴が、前から後ろから右から左から耳を貫いた。鋭い音の群れが金槌になって脳を叩き潰す。
だから、雨が嫌いになったのだ。誰かがいなくなるのが恐かったから。
誰かって、誰だっけ?
────────
「……」
甲斐甲斐しくAの世話を焼くのを殺せんせーに任せたカルマは、玄関の壁に背を預けていた。腕を組んだ彼が見下ろしているのは、ずぶ濡れのAの鞄だ。正確にはその中に滑り込ませられているであろう端末、だ。
彼女の母親が心配してしまうことを考えれば、こちらから一度連絡してしまってもいいのではないかと思い立ったのはつい先程のことである。勝手に鞄を漁るのは憚られるが、持ち主が寝てしまっていては許可を得るのも難しい。
殺せんせーの方から頼子には連絡をとってもらえばいいか、と結論づけたカルマだったが、
踵を返しかけた彼の耳に、異音が飛び込んだ。
外の雨音に紛れてしまいそうな程の僅かな音だった。空気を震わす振動音は、明らかに視界の中の鞄が発信源だ。膝を突いたカルマが外皮に触れると、外ポケットに当たった左手が一層強く揺れる。バイブレーションに驚く間も惜しく、そのままポケットの入り口に伸ばした指が硬い感触を捉えた。
端末のカバーに覆われた面をひっくり返すと、規則的な振動で滴を弾く液晶画面が露になる。カルマの瞳を照らすロック画面に映る着信の二文字と、見覚えのある名前に左手が一瞬固まった。
が、そんな短い時間では着信がやむ筈もない。躊躇いを見せたカルマだったが、このまま不通にしても
「もしもし? 浅野さんの携帯ですけど」
「……何でお前がAの電話を持っているんだ」
「ちょっと色々あって浅野さんが出られないから代わりに出てやったのにひどくない? そこまで怒んないでよ
浅野クン」
.
603人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「赤羽業」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:窓 | 作成日時:2022年3月22日 20時