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暮れも過ぎた今の時間帯にくる者は予想がついていた。先程電話した時間と彼がいたであろう場所を考えると思ったよりも早い到着が想定外だというくらいだ。
玄関から外の景色を覆い遮る巨大なレインコートにぎょっとしながらも、すぐに落ち着いたカルマは巨体改め帰国したての殺せんせーを招き入れた。
「時間がかかってしまいましたね。待たせてすみません、カルマ君」
レインコートを三和土で脱ぎながら丸い額をぽりぽりと掻く殺せんせーに、カルマは頭を振った。寧ろ電話で話していたより随分と短時間だったらしい帰路は、リビングで伏しているAを心配してのことだったのだろう。
「それで、浅野さんは今どちらに? 家出というのは……」
「こっち。何があったか聞ける状態じゃないから、俺も詳しくはわからないんだけど」
そこまで言って、カルマは先を話すのを躊躇った。勢いで連れてきたはいいが、重苦しい空の下で吐き出した彼女の言葉に確証はない。あれだけ努めて理性的だったAが取り乱していたとはいえ、否、いたからこそ、彼女の出自についての話は冷静になった今信じていいのか揺らぐものがあった。
そんな、言ってしまえば中途半端な心持ちでAの言葉尻から臆測を述べるより、直接話をさせた方がいいのだろう。スポーツ観戦時の格好から一瞬で学校でのアカデミックドレス姿に着替えた殺せんせーは、カルマの案内でリビングに通された。開きっぱなしだった入り口を潜り抜けて早々ソファに埋まる生徒に歩み寄った。前もって彼女の異常な様子については伝えていたおかげか、動揺する様子もなくどこからか取り出した毛布をそっと寝そべる体に被せる。
汗で束になる前髪を払おうとした触手が額に触れ、一瞬固まった。カルマからは殺せんせーの背中しか窺えなかったが、それだけが原因でないのは容易にわかった。先生の黒い服の端に見切れたクラスメイトが、壊れた蛇口のようにずっと色の薄い睫毛を濡らし続けていたからだ。
「……ひどい熱ですね。カルマ君、頭や手首を冷やすものを持ってきてくれませんか? 冷却シートでも濡れタオルでも何でも構いませんので」
らしくない焦りが、言葉から一瞬垣間見える。つられて一抹の不安を過らせながら、殺せんせーの言葉に首肯だけしたカルマは足早にリビングを後にした。冷却シートなどという気の利いたものが自宅にないのは家主である彼が一番理解している。
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窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:窓 | 作成日時:2022年3月22日 20時