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「浅野さん……っ!?」
動揺に揺らいだ声を置き去りに、カルマは横たわるAに駆け寄った。うつ伏せに加えて彼女を守るように広がり散らばった髪で、意識があるのかすらも判断が難しい。散乱した制服を避けてAの傍で膝を突いたカルマは、伏せられた肩を掴んだ。心なしか普段よりもいくらか薄くなっている肩に僅かに怯むが、そのまま慎重に体をひっくり返す。
「ちょ、っと、大じょ」
言いかけたカルマの言葉が留められる。立つことはおろか、意識を保つのすら困難な状態らしい彼女が大丈夫な筈がないのだ。仰向けになった拍子に上向いた頬や唇に髪が食まれる。ぺったりと貼りつく程に滲む汗と、外にいた時とは打って変わって真っ赤な顔に、肩にやっていた手が寄せられた。
髪の毛を払った甲で触れた直後、その熱に彼は思わず手を引っ込めた。
「あ、つ……っ」
苦悶の表情で眉根を寄せた顔に一瞬触れたカルマの手が、Aの腕を引いて抱き起こした。膝を突いたカルマの胸元に体を預けた彼女の首が、かくんと折れる。
「浅野さん、おいっ」
焦りを露にした声に無意識下で反応したAが、小さく肩を震わせるがそれだけだ。半開きの口からこふ、と小さく吐き出された息も熱い。大丈夫か思わず尋ねかけたが、聞くまでもないだろうとやけに冷静な自分がカルマ自身を落ち着かせた。
雨の名残か汗ばんだのか、じっとりとした首筋にまだ使われていない様子のタオルを一枚拾って押し当てる。よくよく見れば、丸められているタオルは一枚だけだ。湿り気の残る体を拭い切る余裕すらなかったというのか、彼女には。
何に対してかわからない舌打ちを一つ零したカルマは、数房髪の毛の貼りついたAの首におざなりにタオルを巻いて背中と膝裏に手をやる。雨で冷えている筈が火傷さえ覚える熱にぞっとした。一体どれだけ雨に打たれ続けていたのかは知る由もない。
Aを腕に抱えたカルマは、立ち上がってまた一つ驚愕に息を呑んだ。どこか普段より薄い肩に先程も息を詰まらせたが、加えてあまりにも軽い。元々肉感の少なくスレンダーな体つきの彼女だったが、平均を上回る身長でにしては軽い、軽すぎるように感じた。
すんなりと持ち上がる体が一層小さく華奢に見えて、武骨な手が守るように、匿うようにAを抱き込む。
カルマの視界の死角、淡い赤毛に遮られた瞼の縁から、揺れた拍子に粒が一つAの着替えたシャツを染めたのに彼は気付かなかった。
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窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:窓 | 作成日時:2022年3月22日 20時