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家出した浅野さん拾ったんだけど
電話のコール音が消えるやいなや開口一番だけふざけたカルマは、殺せんせーの慌てる声を流しながら努めて簡潔に状況を話した。といっても、ただクラスメイトを家に連れてきたというだけで彼女に何があったのかその仔細は全く触れていないわけだが。
カルマの言葉からAの異変を感じ取ったのか、すぐに向かう旨を伝えた殺せんせーの背景に凄まじい風の轟音を聞いて通話を終わらせた。地球の裏側からなら一時間もかからずにここに着くだろう。湿った髪の一房を肩にかけたタオルで擦りながら、彼の思考は客人へと戻される。
彼女の乱れように詳細に触れられていなかったが、螺子がとんだようにけらけらと笑いながら紡がれた言葉が原因とは察しがついているもののそれ止まりだ。情動的というよりは理性が働くタイプのAがああも壊れかけた様子に、カルマも表に出さずとも少なからず動揺していた。
家族が本当の家族ではなかった。年不相応な初心な部分を持ち合わせていることで大きなショックを受けているのか。それとも
ともかく、可能なら当人に詳しく聞かなければ始まらない。カルマはそう思い立って脱衣所の方へ足を運んだ。
「浅野さん? 生きてる?」
空気を砕くような言葉と共に控えめに扉を二回叩くが、返事がない。
「……浅野さん?」
二度目は、一度目より訝しんだ声色になった。しんとした静かな室内につと違和感が転がり込む。
そう、
曇天で彩度の奪われた視界の中でも一際体温のない、唇まで白んでいたクラスメイトの顔を。
「……っ浅野さん、入るよ」
嫌な予感がした。反射的に彼の手が扉の取っ手にかかる。前置いた言葉と共に敷居が踏み越えられて、そして一瞬の後立ち止まった。
床に散らばるタオルにスウェットのズボン、脱ぎっぱなしのブレザーとブラウス、放られた眼鏡。それら全てを波紋のように広がる明るい橙色の髪が波打っている。その持ち主を────うつ伏せで倒れ伏して浅い呼吸を繰り返すAを、カルマの視界が捉えた。
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窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:窓 | 作成日時:2022年3月22日 20時