赤羽君は浅野さんが気になる#5

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　胸からずり落ちそうになる白を受け止めると、頭上から声がかかる。

「制服脱いで拭いて。俺の服しかないけど着替え出してあるから」

「……」

「それだけ濡れてたら制服クリーニング出さないと駄目になってるし適当に置いといてよ」

　無言ながら小さく頷いたAにそう言って、引き戸を閉めたカルマはリビングの方へ足を進めた。手にはタオルが残っているが、渡し損ねたものではない。脱衣所の濡れ鼠には及ばずとも、彼の服も大分水を吸っている。
　張りつくカーディガンとワイシャツを乱雑に脱いだカルマは、奥にある自室へと足を進めた。できれば先に衣服を洗濯機に放り込みたいところだが、生憎客人を押し込んだのは彼自身だ。

「……と、そうだ」

　タオルを頭に被ったカルマが、比較的被害の少ないズボンのポケットに手を突っ込んだ。一段落ついてようやく、渚と話していたことを思い出してポケットから取り出した端末を片手で操作する。
　修学旅行でホットラインの重要性を痛感し、標的とコンタクトが常にとれるのなら何かと使えるだろうと思い立った彼の端末にはごく最近新しい連絡先が追加されていた。

　背後の少し離れた位置にある扉の向こうに気を遣りながら、カルマはかき分けた髪の隙間から耳に端末を当てる。


「……あ、殺せんせー？ 俺だけど」



────────

　背中に扉の音を受けながら、Aは両手のタオルにぼうっと視線を落とした。びしょ濡れの眼鏡が滑って僅かにずれるのが疎ましく、耳からつるを抜き取る。拍子にレンズの水滴が点々と真下の白い繊維を色濃く染めた。ぺたりと頬のラインから首筋までを伝う髪が煩わしいが、タオルと眼鏡で埋まった両手を動かす気力すら湧かなかった。

　おざなりに体を拭いて、何とか渡されたTシャツに袖を通した端で、内側から打ちつけられる頭の隙間を思考が占領する。考えたくない、考えなくてはならない、これ以上はいけないと自分が自分を互いに殴り続ける脳がキャパシティを越えて、とうとうAは膝からくずおれた。

　聞いたばかりの隠しごと、過去のこと、加えてクラスメイトの前でひどく取り乱した上に迷惑をかけてしまったなと、現実逃避したひとりごとが頭を灼ききって熱くなる。

　たまらず壁に寄りかかろうと伸ばした手が、届かず空を切る。


　あたまが痛い。熱い。あついのに、さむい。きもちがわるい。


　まずい、と理解する前に限界が訪れた。


　世界が、揺れる。



　ぐらり。


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