浅野の時間・3時間目-3 ページ23
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傘を肩に引っかけ、ずぶ濡れの鞄を手にしたカルマは、Aから手を離して渚に向き直る。
「取って食おうってわけじゃないんだからそんな心配しないでよ、渚君」
「えっあ、いや……」
一瞬躊躇って出た否定が暗に答えになっていた。先程のカルマの言葉にはらはらとした表情をした渚が、顔を覆うクラスメイトを横目にでも、と続ける。
「浅野さんのこと、どうするの……?」
「とりあえず俺の家連れてくよ。このままだと風邪引くし」
殺せんせーも今いないしね、と続けたカルマが往来の中に佇む生い茂った山道の入り口を見やった。家族とどんな話をしたのか知るところではないが、もしAが帰らなければ彼女の母親のことだ、下手したら通報もされかねない。
親が家を空けがちなのをいいことに自由な生活を送るカルマだったがこういう時は担任に連絡しておくべきではないか、という思考は持ち合わせていた。当の超生物は今頃、地球の裏側でスポーツ観戦に勤しんでいるのだろうが。
「……じゃ、俺達帰るね。また明日、渚君」
二人とも気をつけてね、と頷いて返した渚に背を向けて、カルマは黙り込んだAを連れてその場を後にした。
雨はまだ、やみそうにない。
────────
台風にも劣らない本降りに、制服を濡らした二人は半開きのドアから玄関に滑り込んだ。どうにも動きの鈍いAは半ば引きずり込まれるように足を踏み入れるなり、ごつんと扉に後頭部をぶつけてしまう。
僅かな時間だけ泣き喚いてからというものの、彼女は貝のように口を閉ざしたままだった。電車に乗って最寄り駅に着いた時、カルマの住むマンションの前で立ち止まった時、「降りるよ」「ここだよ」と端的に告げた彼の言葉に促されついてきているだけだ。
俯いたままのAの顔は、濡れそぼった髪に遮られて見えない。それが余計に、彼女の生死すらあやうく見せていた。
生きてる? と直球で聞くわけにもいかず、先に靴を脱いだカルマはAの鞄を置いて傍の脱衣所へと姿を消した。扉に背を預けたままのAは、前髪に阻まれた視界の中で彼を見送るが、程なくして戻ったカルマが雨に冷えた手首を掴む。無抵抗に前のめりになった体が、辛うじてローファーを蹴飛ばすように脱ぎ散らかした。
薄暗い玄関から照明のついた脱衣所に連れられ瞼が僅かに痙攣する。が、それもすぐに治まり、次の瞬間にはタオル数枚が押しつけられていた。
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窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:窓 | 作成日時:2022年3月22日 20時