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「もう一回聞くよ、浅野さん」

 刺々しかった声が和らいで、Aを呼ぶ。口をはくはくと震わせたままの彼女に、駄目押しのようにカルマが一歩距離を縮めた。


「家に帰りたい?」

「ぇ、う……」


 俯いて翳る瞳は、地面を映して彼からは見えない。音二つ零したAは首を縦にも横にも振らなかった。断罪を待って頭を垂れる彼女に、カルマはとどめを刺した。





「────帰りたくない?」


 アスファルトに釘付けのルビーが、無理矢理に持ち上げられる。眉間に皺を寄せた少女が、今初めて視線を揺らがせずカルマを見た。

 いっぱいいっぱいの器の箍が、ゆっくりと弛んでいく。





「……っ……ぃ、」


「うん?」


 聞き返す優しい声色に、とうとう決壊が訪れる。




「────、たくない……っ」


 濡れたレンズで乱れた視界が、一層輪郭を滲ませる。器から溢れ出たものが、ぼたぼたと目尻から転がり落ちていった。



「帰りたくない、帰りたくない……!!!」

 鞄を取り落として空いた手が、顔を覆った。最後には嗚咽混じりの言葉を吐き出した口元を抑えたAの瞼が、懺悔するようにぴったりと閉じられ苦悶の表情を浮かべる。


「かえ、りたくないっ……」

「うん、」

「ぇり、たくな……なさ……ごめんな、さぃ……っ」

 ついにはしゃくり上げた少女を落ち着かせるように、掴みっぱなしだった腕を引き寄せたカルマは、本心に続いた懺悔に耳を疑った。目を瞠った彼の顔がちょうど死角になって見えないAは、帰りたくない、ごめんなさい、をひたすら繰り返す。


 怒りのような哀傷のようなものを一匙混ぜた驚愕を、カルマも、最大限傍観に徹していた渚も隠せずにいた。

 どこか浮世離れした印象を抱えていたクラスメイトだったが、進級してからはその案外人間じみた年相応な一面を垣間見ることもあったのだ。だというのに、今の彼女はどうだ。駄々にもならない本音にまで、重罪人のように罪を乞うのは異常だった。

 年頃の子供なら持ち合わせる、ちょっとした反抗心すら許されないまま生きてきたクラスメイトの腕を掴んでいた手で、カルマは彼女の肩を掴んで橙髪の隙間から見える耳に口を寄せる。言い聞かせるように、聞き漏らさせないように。



「いいよ、帰らなくて。帰すつもりないから」


 同情なんて温い感情ではない。ぼろぼろと頬を濡らすAをこのまま壊してたまるかという、衝動的なものにカルマは突き動かされていた。


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(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2022年3月22日 20時

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